porque me gusta
□第1章 突然
1ページ/3ページ
ある街で吉野夏海はひっそりと暮らしていた。
シェアハウスの仲間と暮らしており、彼氏との交際も順調だった。
そのはずだったのに夏海は目の前の光景が信じられなかった。
彼から『話がある。』と急に近所のファミレスに呼び出されたのには理由があった。
「…夏海、別れてくれ。」
「夏海ちゃん、ごめんね。あなたの彼のこと…。」
「俺、彼女と共に生きて行くことにした。」
夏海は1年半くらい前から薄々気づいていた。
彼がもしかしたら浮気しているかもしれないことに。
気づかない振りをしていたのは、彼に対するせめてもの優しさだと思っていた。
それなのにこんな結果になったのには、正直言葉がでない。
「どこの産婦人科、受診したの? 母子手帳あるなら見せて?」
「どこだって良いでしょ。それに今、母子手帳はないの。」
「夏海、いい加減にしろ!どうせ嫌がらせするんだろ?」
夏海は今の質問の答えにある確信をした。
「嫌がらせはしない。婚姻届は持ってきてるんでしょ。証人の欄にサインする。」
2人が驚いた顔をした。夏海も自分の発言には正直驚いていた。だが淡々と続けた。
「そう言うのは早い方がいいんじゃないの?」
「…。それは…。」
「夏海ちゃん、それには段取りがあるから、ごめんね。」
「そう。」
夏海は泣き出したい気持ちを抑え、その場を後にした。
その日、どこを通って帰ったのか記憶がなかったのは言うまでもない。