□きみとぼくのこと
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あれから、あの妙に懐かしい感じのする不思議な奴と変な出会いをして、それからあいつについて分かったこと。
名前はリンク、年齢はなんと俺と同じ17歳(年上かと思った)、それから人種も、俺と同じハイリア人。彼の周りをふよふよ浮いている羽の生えた何かは、どうやら妖精というらしいということ。……意外と共通点が多かった。彼は、リンクは、七年前のあの日に、どう思ったんだろう。何を考えて、どう行動したんだろう。やっぱり俺と同じように逃げ出したんだろうか。いやでも、もしかしたら、俺と違ってかっこいい彼は戦ったのかもしれない。その上で、生き残ったのかもしれない。
そんな真似は俺にはきっと一生できないなあ、なんて事を考えながら、水に浮いている釣り具を見つめる。あの出会いから数日、俺達は何故だかすっかり意気投合してしまって、一緒に釣りなんてする仲になってしまった。

「なあ、リンク。」
「ん?」

いきなり変な感じに話しかけた俺を鬱陶しがるでもなく怪しむでもなく優しく受け入れてくれたリンクは本当に凄いと思う。うん、凄い。
所で本当の美形というのは何をしても似合うものなのだが、リンクがまさにそれだった。まさか一生の内にこんなイケメンに出会うとは思っていなかった俺はあのとき振り返った美形(リンク)に思わず硬直してまって数分ほど動けなかったのだが、まあそれはそれとして。

「……なんも釣れないなぁ」
「…………………うん」

どうやらリンクも俺も、釣りが相当下手なようだった。
さっきから小魚一匹も、定番である長靴のひとつですらも釣れていない。どういうことだ。カーフェイでももっと釣れてたぞ。もしかしてあいつが釣り上手かっただけなのか。ちくしょう。そんな事を考えながらも全く動く気配のない浮きを睨んであくびを一つ。つくづく思うが、俺はとことん暇人である。まあ、あののどかな村では読書や釣りくらいしかすることがないのが現状なのだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。まともに仕事のある奴なんていうのは、あの村では結構少ないのだ。

「……レイトはさ、ハイリア人、だよな、」

と、そんなくだらない事をぐるぐる思っている最中に、ふと横から視線を感じたのでそちらを向けば、真面目くさったような緑色の綺麗な瞳とともに声がする。疑問形ではあったけれど、それはどこかわかりきったことを確認しているような口調だった。やめてくれよリンク、そんな声で聞かれたら、あの時のことを思い出すじゃないか。

「……ああ、そうだよ」

未だに抜けきっていないトラウマを思い出さないでいようとするのに必死で絞り出した声は予想以上に震えていた。情けない。ハイリア人かどうか少し質問されたくらいでこんなに怯えるなんて。……それだけ、深く残ってたなんて。……どうやら、早く忘れてしまいたいと思うものほど、心の中には深く残ってしまうものらしい。厄介なことだ。
横で俺の様子をそのまま黙って見ていたリンクが、静かに拳を握り締めた事にも、彼の手の甲にある三角が、僅かに光っていたことにも気付かないままに、ゆっくりと結局最後まで動かなかった釣り竿を引き上げる。
針金の先についていたはずの餌は、いつの間にやら綺麗さっぱり食べ尽くされていた。







彼のこと、俺のこと。
( 笑える話ならよかったのに。 )

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