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□片道片思い
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少し遠くまで買い物に行っていたオレは、帰りの電車に乗った。
時間には余裕があったが、席にあまり余裕はなく、車両を行き来していると、ひとつだけ空いてる席を見つけた。
「…あ」
空いてる席の隣に座っていたそいつは、オレが片思いしてる奴だった。
片道片思い
そいつは、音楽を聴きながら携帯をいじっていた。
どーすっかな………。
あそこしか空いてねーしなぁ…。
歩き疲れたから、出来れば座りたい。
…しょうがねぇ。
どかっとそいつの隣に座る。
『あ、グリーンだ』
「…おう。○○」
『誰かと思ったよー。なんか、すごい勢いで座るからさ』
イヤホンを取って、クスクス笑う。
『ヤンキーかと思った』
「悪かったな。期待ハズレで」
『ううん。グリーンでよかったよ』
……おい、待て。なんだそれ。
どういう意味で言ってんだ、こいつは。
『1時間もヤンキーの隣に座るのなんかごめんだし!』
…そうだよな。
こいつは、そういう奴だよな。
教室ではよく話す方で、冗談を言い合ったりふざけ合うのも自然にしてるし。
――やっぱオレ、恋愛対象として見られてねーよな…。
「そういや、お前どっか行ってたのか?」
マイナス思考をごまかすように、そう聞いた。
『服買いに行ってた。ちょうどセールだったからっ』
「……買いすぎじゃね?」
見ると、足元には5つ程の紙袋が。
しかも、結構でかめのやつ。
『だって、セールのうちにたくさん買わないとって思って。バイト代も今月分余ってたから、久しぶりに大人買いもしたかったし!』
どんなだ。
金があったら、こんなに服を買うのかこいつは。
セールのうちにって、お前どこの主婦だよ。
つっこむところはたくさんあったが、あえて言わなかった。
『そういうグリーンは?』
「オレも買い物。レッドと競争することになったゲームを買いに」
『また〜?ほんっとに男子っていつまで経ってもお子様だね』
「言ってろ。お前だって、セールだからとか言って、普通そんなに買わねーだろ。主婦か」
『服は女の子の必需品なんですー!』
「ゲームだって男子の必需品だ、バーカ」
言われたら言い返す……。
これがオレらのいつものやりとりだ。
電車出発のアナウンスが流れ出した頃、
『わたし、眠いから寝てるねー。駅着いたら起こして』
小さくあくびをして、イヤホンを耳に差して目をつぶった。
オレも、ポケットからウォークマンを取り出して音楽を聴くことにした。