story
□ぴくHELL
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ほんとうに何でもない日だった
いつものようにのらりくらりと半日を過ごした後、今や僕の習慣になりつつある境内の落ち葉集めをする
参拝客も疎らで静かな時間が過ぎていく
今日いい天気で風もなく集めた落ち葉が飛んでいかなくて助かると、内心いつもより些か気分もいい
こんな日にあの子がくれば今日がすごくいい1日になるとぼんやり考えて、なんだか自分らしくないなとすぐにやめた
気づけば僕らは多くの時間を過ごしてきた
アンデッドから人間になり、こうして何もなく穏やかな日をおくれるようになった。新しい日々を過ごせるようになった。
そして僕はアンデッドのときには知らなかった感情も、知ることになった。
それが人間になったから芽生えたものなのか
それとももっとずっと前からだったのか
そんな事はまあどうでもいい
僕は恋をした
しかも同性だ
恋はともかく同性を好きになるというのは少なくとも普通ではない
しかしその気持ちがあまりにも自然に僕の中に入ってきたものだから
僕はそれがさも普通であるかのように、当たり前かのように受け入れたのだ
人間になってから2年と少しが経っただろうか
今まで何にも考えずに生きてきた僕が自分で見つけた感情だ。
大切にしたいと思いつつ早く伝えて楽になってしまいたいという気持ちにも苛まれる。
らしくないと思うがこれも人間特有のそれなのかもしれない。
素直に喜ぶべきか…
そんなことを悶々と考え込んでしまっていて回りの音もきいていない時に、とんとんと、肩を叩く感触
不意なことにすこしだけ驚いてしまう
まさかほんとにあの子が来たのかと思い振り返ると、そこにいたのは僕よりすこし背の低い女の子と、あの子…カガヤくらいの背丈をした女の子がそこにいた
…少し残念に感じたのは気のせいじゃないだろう
そんな僕に構わず目の前にいる女の子は口を開く
「あのっ、私、よくここにお参りに来るんですけど、いつも来るたびにあなたのこと気になってて…」
「ほら、ちゃんと言いなって」
カガヤくらいの背の女の子が恥ずかしそうに小さく僕に伝えてくるのに対して、僕よりすこし背の低い子がそれを促す
「えっと…わ、私っ貴方の事が好きなんです!」
目の前の彼女は顔を真っ赤にして僕にそう言った
「遠くから見てるだけで話した事もないけど、私…」
どうしても好きなんです
そう続ける彼女の目は真剣で必死で
さぞ勇気を振り絞ってきてくれたんだろうという事が伝わってくる
「あの、やっぱり…だめですか?」
「この子、すっごいいい子なんですよ!最初は試しにでもいいんじゃないですか?」
「あ、いや…そういうのは」
「彼女さんとか、いるんですか?」
「えっ嘘まじ?」
「そうじゃない。
そうじゃないけど、好きな人がいる」
だからすみません…
貴女の気持ちには答えられない
そう言うと一気に目に涙を溜めて眉をたれさげる彼女
涙というのはとんでもない武器だと改めて思う
悪い事をしたわけではない、そうわかっていてもどうしても罪悪感を感じずにいられないのだから
「ほんとうにすみません」
「っいいんです、端からダメ元だったんです…だから、想いを伝えられただけでもよかった。
これからもまた、お参りしに来ていいですか?」
「ええ、もちろん…」
僕がそういうと彼女は微笑み 涙を拭いて去って行った