コードネーム鬼茶

□番外編 それぞれのプロローグ 〜昔話をしよう〜
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コードネーム鬼茶 番外編 それぞれのプロローグ 〜昔話をしよう〜

灰色<グレー>のみんなと再会した後アジトで今後について話し合っていたときのことやった。

「まあ、みんなが笑顔になるような犯罪にしか手を貸さなかったカリヤさんと違って黒猫組はどんな手段をつかってでも情報を手に入れて

仕事をするような闇の組織やしなぁ。」

「なあなあ、みんなが笑顔になるような犯罪ってどういうこと?」

ウチはカリヤという名前が出たとたん思わずそう聞いてしまっていた。

「たとえば怪盗とかさ、そういうやつ。」

そういえば、なんでおじいちゃんは闇の世界に手を出したんやろう?

「さあ〜それはわからんな。なんせ俺たちが入ったころにはもう有名な情報屋やったしな。」

「ところでさ、なんではとむぎとプーアールはこの世界に入ったん?」

今まで聞いたことなかったけどせっかくやし。

「じゃあさ、みんなの始まりを順番に話していかへん?」

それおもしろそう!

「ほんならまず最初は俺たちからやな。」



プロローグ:情報屋はとむぎとプーアールの場合

これは今から十数年前、俺らが高校を卒業したばかりのころの物語。

「ついに来たな〜大阪!」

「俺たちこんな都会で暮らしていくんや・・・」

高校卒業後、俺たち2人は漫才師を目指し、お笑いの本場大阪に上京したんや。

この町はド田舎から出てきた俺たちにとってはすべてが新しいことばかり。

とにかく圧倒されっぱなしやった。

「とりあえず家探さなんとな。」

「それとバイト先もな。」

「あ〜タバコすいてー。」

「我慢しろや。俺だって吸いたい。」

この時俺らはもうタバコの味を覚えていた。

もちろん違法です、はい。

そんな事を話しながら歩いていると、

ドンッ

「痛ぁ〜」

「いたたたた。」

え、やばいよ。なんか人とぶつかったし。

「す、すいません!」

「いえいえ、そっちこそ大丈夫ですか?」

よかった〜極道の人とかじゃなくて。

しかも感じのよさそうな人やし。

「ところで、君たちさっきバイト先探してるって言ってへんかった?」

「あ、まあ、はい。やっぱり漫才だけでは食っていけないんで。」

「へえ〜、そうなんや。ならよかったらウチの会社で働かへんか?」

実はこういう物なんだとその人が差し出した名刺には、とある食品会社の社長と書かれていた。

「君たちがよければ明日からでもいいし。家は知り合いに不動産屋がいるから、そこを紹介しよう。」

「じゃあ、よろしくおねがいします、社長!」

「返事がよろしい!」

これが、俺たちと社長、いやカリヤさんとの初めての出会いやった。

そして次の日の朝。

「おはようございます!」

「お〜おはよう。どうや、部屋は気に入った?」

「はい!」

「やっぱり金剛のやつ、物件見つけるのだけは確かやな。」

社長に紹介してもらった金剛不動産という所が所有している家は、すこし狭いものの、とてもきれいで俺たちにはもったいなさすぎる物件

やった。

「君たちには配達と荷物の積み下ろしをやってもらうからね。」

上京していきなりとてもいいバイト先を見つけることができた。かなりラッキーである。

仕事はちょっときついが、そのぶん給料が結構良かった。社長もいい人やし。

そうして俺たちはそこそこ売れるまでここで働くことになる。

「じゃあ、さっそく配達行ってきます!」

そう言ってはとむぎが店を飛び出したその時やった。

ドカーンッ!

俺たち3人は突然の爆音に耳をふさぐ。

事態が飲み込めないまま、道路先の日比谷の元へ駆け寄る。

「日比谷、大丈夫か?」

「はは、なんとか。商品もぎりぎりセーフやわ。」

そう話すはとむぎは商品を抱え込んできっちりと守っていた。

「ふう、さすが見込んだだけのことはある。にしても、ついに動き出したか・・・黒猫組。」

黒猫組、彼はそうつぶやいたけれど、その意味を問うことはできなかった。

「今の音はなんやったんでしょうね?」

「さあ、たぶん爆竹かなにかやないかな。さ、気を取り直して2人とも配達に行った行った。」

腑に落ちないなあと感じつつも会社を後にした。

曲がり角を曲がるとはとむぎがピタッと足を止める。

「どしたん?」

「社長が誰かとしゃべってる・・・すごい緊張感。」

自分の耳には何も聞こえなかったがあいつがそういうので、耳を澄ましてみた。

すると、社長と誰かの話し声がかすかに聞こえてくる。

「やっぱり黒猫組か。確かシャムとか言ったよな。なんのご用時で?」

「ルパンにちょっと用がありましてね。彼はいまどこに?」

黒猫組?ルパン?

聞きなれない言葉が飛び交う中、俺たちは気になって近くのキーコーヒーの看板に隠れる。

「さあ、いつもの所やと思うけど。」

「あそこですか?ならいいです。」

社長と話しているのはシャムと呼ばれた黒ずくめの服に身を包んだ金髪の男。でも、後姿しか見えない。

「そうか。ところでなんで爆竹なんて鳴らした?」

「ところで、カリヤさんは宝石を新たに作ったそうですね。」

カリヤ?社長ってそんな名前やったっけ。

「確かに。それが質問の答えか?」

宝石とか、すごすぎる。なんで食品会社の社長なんやろう?

「で、それが今運ばれるという情報をつかみました。だから爆竹を使ってみなさんの足を止めたんです。」

「ほう、闇の黒猫組がそんな大胆な行動に出るとはねえ。若いやつの考えることは大胆やね。」

え、はこばれる?ってことは・・・

「で、その宝石のありかは・・・ここです。」

「逃げろっ!」

俺たちは社長の言葉を聞き終わらないうちに飛び掛ってくるシャムから逃げ出していた。

「なあ、どこ行ったらいいん?」

「なこと知らんやん!」

まったく、こんな見知らぬ土地で命がけの鬼ごっこなんてしたないわ!

俺らが慌てふためきながら走っていると、後ろから

「不動産屋に行け!あそこなら助けてくれる!」

と声が。

「とっとにかく、行こう!」

とにかく不動産屋までたどり着かないと殺される!!

本能が明らかにそう語っていた。

「ところであそこってどう行くんやったっけ?左?」

「ちゃう、右や!」

大都会の中を2人で走る走る。それを外人の男が追いかける。

いつもなら心地よく感じる風もこのときばかりは邪魔にしか思えなかった。

自分の胸のドクン、ドクンという音が聞こえてくる。

「まずい、だいぶ差が縮まってきてる!」

後ろを振り返るともう1メートルほどしか感覚がなかった。

これじゃあ、追いつかれるのは時間の問題やろう。

「なあ、ちょっとこれ持っといて!」

「なんやねん急に!」

いいからとあいつは箱を押し付ける。黙って受け取る俺。

「こうなったらこっちから攻撃するしかないっしょ!」

ええ〜っ!!いくらなんでも不利すぎるやろ。明らかに雰囲気がカタギやないって!

「ええ、絶対止まったらあかんで!」

なこと言われなくてもわかってるわ!

よくわからない確認作業が済むと、道端にあった新聞紙を突然拾い出す。

そして、それを力いっぱい投げつけた。

シャムの前にビロードのように広がる新聞紙。

それをぼんやりと眺めていると思いっきり腕を引っ張られた。

体がひとつの建物に吸い込まれる。

そして、ピシャンと扉が閉まった。

「ギリギリセーフやわほんま。」

その言葉を聞いてああ、逃げ切ったんやと初めてわかった。

疲れきった俺たちは広い応接間のソファに座り込む。

そこから部屋を見回すと、古そうな木の壁、少し傷のある向かい合わせの茶色いソファ、そして年代物の机の上にあるごっついガラスの灰

皿。

昨日来たばかりの『金剛不動産』や。間違いない。

「ところで、なんで逃げ切れたんやろ?」

「それは、日比谷君が攻撃するって言ってたからあれが投げられた時、新聞紙の隙間から攻撃されると思ってシャムの意識がそっちにいっ

たんだろうね。」

俺の問いに答えたのは不動産屋の社長さん。どうやら俺たちの逃走劇を見ていたようだ。(だったら助けてほしい。)

「うん、荷物も無事だしなんの失敗も無い。やはりあの策は大成功だったみたいや。」

「良くそこまで思いついたな。」

「えっ、べつに考えてやったわけやないけど?」

まったく、これやからこいつはおもしろい。

「おお、無事やったか。」

社長!いつの間に。

「死ぬかと思いましたよ、いきなり追いかけてきて。」

「はは、周りの影響も考えてか銃を使わなかっただけシャムは大人やね。」

じゅう・・・?アハハハ。

場にしばらくの間沈黙が流れた。

「で、どういうことなんですかこれは。ただの配達とは言わせませんよ。」

ついに切り出したか。触れてはいけないというのはわかってる。でも、言ってもらわないと納得できない。

俺たちは開けてはいけないパンドラの箱に手をかけたようだった。

「ちょっとした演出って言っても納得してくれなさそうだね。カリヤ、ここは説明したほうがよさそうだ。」

「本当は言いたくないが、仕方ないか。まあ信じてくれるかどうかはわからんけどね。」

ここにたどり着くまでに信じられないことがあったから驚きません、はい。

重々しい沈黙が長く続いた後、ついに社長が口を開いた。
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