コードネーム鬼茶

□第5話 真夏の夜の恋
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コードネーム鬼茶 第5話 真夏の夜の恋

助けて。

助けて。

私はここよ。早くここから出して。

「誰?名前は?どこにいるん?」

ウチが問いかけても向こうはまったく答えない。

助けて、彼女はその言葉しか繰り返さなくて恐怖さえ感じる。

顔は、ぼやけて良く見えない。

長い青みがかったきれいな黒髪を後頭部や首の辺りで折り曲げているのはわかる。

そしてきらびやかなかんざしがあちこちにささっている。

服はどこかの国の民族衣装のよう。たぶん王朝なんかがあった時代のの中国のものだ。

襟元と腰から下は赤色で、腕は桃色の衣を身にまとっている。

歳は顔が見えないので特定しにくいがウチと同い年か、それ以上だろう。

また彼女が語りかける。

助けて。

助けて。

早くここから出して。

私を救えるのは貴方だけ。

あなたは私と同じ人。

私の名前は・・・




「鬼茶ー!起きて。」

わわわ、何この声!?

ウチは驚きすぎてその場からおっこちそうになった。

あっ、ウチは鬼茶。現役中学生にして世紀の怪盗。きょうは水色のワンピースを着用。

上を見上げるとそこには呆れ顔のはとむぎが。ちなみに黒っぽい半そでTシャツにベージュのズボン。

「出かけるから早く仕度してって言ったやん!なのにまた寝てたん?」

へっ、ウチ寝てた?

そういえば、早くしろという声をさっき聞いたような・・・

ぼやけていた頭が次第にはっきりしてきて記憶が元に戻ってくる。

「そういえば・・・いまから仕事、やったっけ?」

ひさしぶりの仕事に大喜びで、用意して、その後・・・あ。

寝てたわ。

「いいから行くで!」

ウチは荷物を抱えながらドテドテとアジトを走った。

でも、なんやったんやろうさっきの。

まさか、夢?

でもなあ、やけにリアルやったしなぁ。

あー、もうわからん!

はとむぎと2人で大慌てで表に駆け出すと、すでに2人は準備を終えかけていた。

「鬼茶遅い!」

プーアールがウチに向かってそう呼びかける。彼は白いポロシャツにジーパン姿。

ルパンはいつものことだというような顔をしてる。丈の長いダブダブTシャツに半ズボン。

「ごめんごめん。ところで、今日は車で移動やって?」

車で移動したこと無いのはウチだけやから、どんなのか分からない。

「はあ〜そうやねんな。」

まあまあ、2人ともそんなにため息つかなくても。

「にしても、これがその車かあ。」

3人家族の家の車にしては大きめのワンボックスカー。

ビターショコラのようなきれいな車体だけど、タイヤが古そうなのを見るとずいぶんと乗り回しているのであろう。

「はよ乗って!」

バンとドアを開け、助手席に座るとタバコのにおいが体にまとわりつく。

はとむぎとルパンが後部座席に、プーアールが運転席に乗り込んだ。

「よし、行くか!」

車はゆっくりと動き出し、昼の大阪の町を走り出した。

だが、この時ウチらは知るはずも無かった。

車を追うように走り出した2人乗りのバイクの黒い影を・・・・・・
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