コードネーム鬼茶
□最終話 バッドエンドは大嫌い(上)
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「お前、どこ行くつもりやねん。」
黒い上下のスーツにネクタイ、その間をつなげている銀色のテェーン、スーツから伸びるすらりとした足、小さな顔にくりんとした目、今日はめずらしくコンタクトではなく黒縁メガネなんや。それでも良く似合っているのはさすが男前。
「キラ・・・・・ あっ、じゃなくて芦田さん。」
「おいおい、苗字やなくて下の名前で呼んでっていつも言ってるやんか。」
キラ、じゃなかった圭人はすこしすねたような顔つきになる。そんな顔もまたかわいらしいこと。
「で、話を聞かせてもらっていたけど、お前、どういうことやねん。 俺たちの前から蒸発しようとしていたやろ!」
さきほどのすねた顔から今度は真剣な顔つきに。圭人のまなざしが痛く、胸がバクバクした。
「そ、それは・・・・・ ルパンと話し合って決めて、なあルパン?」
大慌てで左を向いたけど先ほどまでルパンがいたところにはなにもなくなっていた。
「ルパンなら舞が連れて行ったけど。ほらあそこ。」
圭人の指差す先にはニコニコ顔の姫と、それにズルズル引きずられているルパン。姫はほんまに嬉しそうやな。満面の笑み。
「あのな、みんなに迷惑をかけないようにと思ったみたいやけど、消えられるほうが俺たちよっぽど迷惑。お前がいなくなったらさびしくなるやんか!!」
その言葉に一瞬ウチの細い目が大きくなったのがわかった。そんなことを言われたらちょっと期待してしまう。それでもそう簡単に折れるわけにはいかない。
「そんな甘いこといってられんよ。前のときはたまたま大きな怪我もなく終わったけど次がそうとは限らんわ。誰かが死ぬこともおかしくない。ウチらだってな、軽い気持ちで決めたわけじゃないよ!みんなを守りたいがためや!」
「他に手はないんか!!」
「ない!!」
もうあかん、これ以上こいつと言い合いしていたら、泣く。鬼茶のときは絶対に泣かないでいようと決めてんのに。みんなと離れたくない。みんなともっと時間を共有したい。みんなを守るため、でもそう簡単に割り切れない。
「ごめん、でもやっぱり行く。じゃあな。」
くるりと彼に背を向けて青く澄み渡った空を見上げる。泣きたくなかったから。そしてゆっくり歩き出す。でも、突然圭人に左手をぱっとつかまれて、引き寄せられた。
「お前の気持ちは良くわかった。でも今はそれどころじゃないんや。黄昏が来た。詩織ちゃんや、あの子、菜々美ちゃんも。お前の助けがほしい。」
・・・・・・・・・・なんだとお!? それはまずい!まずすぎる! 黄昏が来ただけでも相当やばいが詩織やオクナナまでとなるとあかん!!
これはウチが行かないと誰も止められん! 今すぐ行く!
「そういってもらって嬉しいわ。そういうことだから早速行くか!」
ウチらは寒空の中手をつないで一目散に駆け出した。急がないと、もう宴は始まっている。
白塗りの大きな洋風のホールへと続く道に敷かれた赤いじゅうたんを二人で駆け上がる。一通りの取材を終えて暇そうにしていた記者たちがウチらを見つけてそっと近づいきた。
「芦田さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです。遅れる!」
「手つないじゃってますけどお二人のご関係は?」
「腐れ縁です!!」
質問から0.5秒で返答するとじゅうたんをぐちゃぐちゃにしながらウチらはホールの扉を開け放した。