コードネーム鬼茶

□最終話 バッドエンドは大嫌い(中)
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いつの間にか駿河の背後にぴったりとさきほどの容疑者が立っていた。その声は低く、異常なまでに落ち着いている。

「お前・・・・・」

「ってことはあれはルパンか!」

「ルパンは9人にも増えないと思うんですけど。」

二人がホールを見回すとさっきまで爆笑をかっさらっていた何人ものお笑い芸人や花嫁、花婿、若い少女など何人もの人が次々に倒れていた。みなそれぞれ苦しげに腹を押さえたりしてうなっている。

「とにかく手当てをしないと。この中にお医者さんとかいないんですか?」

「なら私が見ましょう。私、東京で医者をやってるんですよ。」

少女の呼びかけにタイミングよく現れた青年がまず若い少女に駆け寄っててきぱきと瞳孔や脈を診始める。医者の独壇場についていけなくなったでこぼこコンビはしばし呆然と見ていた。しばらくしてなにやら紙にわけのわからない単語を書いたかと思うと医者は動きを止めた。

「これは大変だ。すぐに病院に運ばないと命に関わります。」

医者がメガネをずりあげながら重々しく言うとそばにいた奥様方がヒステリックな叫び声をあげた。

「宇治原どうする!? 救急車を呼んだら・・・・・・」

「ああ、まんまと逃げられるな。しかしこの状況はまずい。」

駿河はゲストたちに睨まれ後ずさりしながら叫ぶ。その目からは“克貴クン、日比谷クン、芦田クンを早く病院に!”ビームが発射されていてさすがの刑事でも怖気づきそうになっていた。

「どうするんですか?このままじゃあの子、死にますよ?そうなったらお二人の職は無くなるでしょうね。」

鬼茶が淡々と痛いところをつつくと駿河の顔が歪む。冷静をよそおっている宇治原の眉も不機嫌そうに下がっていた。

「もしあれが一般市民ならまだ謹慎くらいで済むかもしんないですけどみんな芸能人です。マスコミがほおっておくわけがない。批判もたくさん寄せられるでしょうし経済的な被害も出るでしょう。特に加藤克貴なんかね。それでもあなたたちはここを封鎖するつもりですか?」

「お前な!!」

宇治原が激しく叫ぶ声がホールに響く。我を忘れて彼女の手を思いっきり掴んだ宇治原は観衆の注目を浴びてゆっくりとその手を離した。
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