短編

□Bloody Valentine
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「モテ隊の野郎ども!準備はいいかぁ!?」
「「「うぉぉおおお!!」」」




食堂に入った瞬間聞こえたのはむさ苦しい男達の雄叫び。
そしてそれを促した、恐らくモテ隊(なんだそりゃ)の指揮者であろうラビは机の上で拡声器を使いながら必死に呼びかけていた。(何故)


そんな彼らを横目に扉から近い席に座っていたリナリーの隣に座る。


「あれ、なんなの?」
「なんかバレンタインでチョコを貰えない悲しいモテない男達の集団らしいよ」
「なるほど…モテたい奴らの集まりだからモテ隊と…」


なんとも笑えない冗談だ。
自虐的すぎて呆れを通り越して同情してしまう。
今時顔じゃないんだからモテない理由は他にあるだろうに。
それに気付かないからモテないんだよ、なんて可哀想だから言わないけど。

でもなんだか面白いからそのまま軽く見守ってみることにした。


「俺生まれて一度も本命チョコもらったことないんだよ…」
「俺も…。毎年母ちゃんにしか貰えなかった…」


なにやら自分の可哀想な話を始めるモテ隊のみなさん。
見ててほんと可哀想なんだけど。こっちまで悲しくなってきたよ。
鼻水を啜る声が響く中、大きな叫び声が聞こえた。


「チョコを貰えないバレンタインなんていらねぇさ!どうせ女の子達はイケメンにしかチョコ渡さねんだろっ!?オレもチョコ欲しいっ!!」


ちょっと待て。
見守る宣言そうそうにつっこむけど、あなたモテますよね?
チョコなんて腐るほど貰ってたじゃないですか。
涙なんて浮かべて迫真の演技をするラビ。さすがブックマン。でもここでその才能を披露するとか阿呆すぎる。

てかおモテになられるラビがこのモテ隊にいるのが1番の疑問だ。しかもこれって裏切り行為じゃない?

そんな彼を粛清するべく、私はモテ隊に向かって声を張った。


「すいませーん。そこに裏切り者がいまーす。赤髪の彼、超モテまーす」
「ちょ、名前!?変なこと言うなさ!」
「だって事実だし。彼、今朝に少なくとも10個は貰ってまーす」
「なんで知ってんの!?……あ、」


やべ、そんな声が聞こえた気がする。一瞬で視界から消えたラビ。
恐らく引きずり降ろされ集団リンチを受けていることでしょう。
ほんとにモテたい奴らを騙してたんだから当然の報いだ。モテたい願望なめんな。

暫くするとラビではなくコムイが拡声器を使って叫んでいた。


「リナリー!神田に本命チョコ渡すなんてお兄ちゃん悲しいよおおおお!!!」


今度はコムイが視界から消えました。
隣からすごいスピードで机の上を渡って飛び蹴りをお見舞いする影が見えました。




「……ちょっと名前サン。オレになんか恨みでもあんすか…」
「冗談半分でこんなことやってるのが悪いんだよ。みんなのあの血走った目見てみな?」


ボロボロの姿で私の前に現れたラビ。
そんな彼にモテ隊を指差しながら告げたけど、うん、言った自分でも背けたくなったよ。まるで狩る獲物を探している肉食動物みたいだ。



ガチャと音がした方を反射で振り向くと、神田と両手いっぱいにチョコを持ったアレンが入ってくるところだった。


2人が一緒になんて珍しい、なんて思っている暇はなく内心心臓がバクバク。


今一番来ちゃいけない人達がきちゃったよ!
何あのチョコの量!アレン貰いすぎじゃね!?
モテる代表の2人が!
食堂で流血とかシャレになんねぇさ!?

ラビと小声で話し合うも、事態は着々と悪化していっている。

入ってきた2人が状況を理解することができるわけがなく、アレンなんかチョコを美味しそうに頬いっぱいに食べてる始末。

神田はというと…、あれ?
何も持っていないと思ってたら、彼の手には一つの可愛らしい箱が。
リナリーを見てみると赤くなっていたので、やっぱりこれはリナリーがあげたやつですか。
神田も沢山チョコ貰えるはずなのに、恐らく全部突っぱねたのだろう。俺はリナリーのしかいらねぇ、的な。

神田の六幻がこっちに飛んできたからひょいと避けると隣から血飛沫が飛んできた。
神田はエスパーか。
てかラビはなんで避けないの、やっぱりMなんですか、それでもエクソシストですか。



「神田のばかぁぁぁぁあ!!!!」


急に大声を出して泣き出したコムイ。そんなコムイに蹴りをかますリナリー。コムイの泣き声に助長されて泣き出すモテ隊のみんな。
怒りを通り越して泣いちゃうときってあるよね。



「…ほんとバカらし」


大の大人が何やってるんだ、と溜息を一つ。
隣でラビがガシガシと髪をかいてるのがわかった。


「あー、あのさ、名前はないわけ?」
「はぁ?なにが?」
「だから、チョコ」


………。
この場に及んでチョコを集るか。



「裏切り者にはないですよ」
「ってことはみんなにはあんの!?」
「義理だけど。お世話になってるからね」


「義理で良ければチョコあげますよー」


モテ隊に向かって再び声を張る。
すると返ってきた声は、
「あー、名前かー…」
「名前のはカウントされねぇよな…」
「どうせならリナリーのが欲しい…」


…………。

「死ね」


持っていた手提げごと床に叩きつける。ほんと死ね。私が介錯してやろう。



もったいねぇ、そう言って床に散らばった包装袋を拾うラビ。チョコ欲しいんだったらそれ全部あげますよ、全く。



「…ん?これは…?」

ラビの声に目を向けると、手のひらに乗るくらい小さな箱。あ、やば。


「……、それは神田にあげようとしたやつです」
「……は?」


神田を見てみるといつの間にかその隣にはリナリーが。
いつ見てもお似合い。
…神田のどこがいいのかさっぱりだけれど。


「渡せなかったのでラビにあげてもいいけど?」
「へぇ…。んー、じゃあ一応貰いましょうかね」

意味深に笑顔を浮かべるラビを無視する。


リナリーにそれを言ったら、ラビのどこがいいか私もわからない、って返されて、笑いながら話した昨日の夜。


まぁどんな形でも、渡したい物は渡せたからミッション完了でしょう。


「ちなみに私は人の彼氏を好きになるようなやつじゃないので」
「人を裏切り者にして集団リンチに追い込んだ奴はどこのどいつさー」
「あれは自業自得」
「ま、このチョコの送り主がオレってのはわかりきってるけどな」
「自惚れんな」
「オレだって好きなやつに貰いたいですよ、そりゃあ」
「死ね」
「そこは恥ずかしがるとこなんすけど…」




モテ隊のみんなが歯を食いしばって私とラビのやりとりを眺めている、なんてそんなの計算済みですよ。
私が作ったチョコの重みを味わうがいい。


やっぱりモテる男は違います。




fin

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