航海士 シン
□春の訪れ
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おじいさんの家に連れて来られた○○があまりにも大きな屋敷や広い庭にびっくりし、門の前で立ち尽くしてしまった。
「○○ちゃん、ボーっと立ってないでさぁ入って」
「し、失礼します。」
門をくぐれば右手に綺麗に手入れの施された梅の木が何本も植わっており
白や桃色の花を咲かせていた。
「うわぁ、すごくキレイ!おじいさん、すごいですね。」
「そうじゃろ。さっ、こっちにお掛け、お茶でもどうじゃ。」
「あ、はい。ありがとうございます。お言葉に甘えて頂きます。」
おじいさんが用意してくれた梅昆布茶。なつかしい味に○○の顔が綻んだ。
「梅昆布茶、好きなのかい?」
「はい。大好きです。」
「そうかい、良かったら一つ、持って行きなさい。たくさんあるから遠慮はせんでいいよ。」
「いいんですか!嬉しいです。ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げた○○におじいさんは、微笑みながら
「この町におる間は、いつでも来てくれていいからな。」
「ありがとうございます。」
「宿までは、孫に送らせよう。タケル、おるか?おるのならこっちへ来てくれ。」
タケルと呼ばれた男が庭へやって来ると○○に会釈をした。
「○○ちゃんだ。ばあさんと同じヤマト出身の娘さんだ。」
「タケルと言います。祖父がお世話になりました。」
「いえ、こちらこそ。立派な梅の木を見せて頂いてありがとうございます。」
「タケル、○○ちゃんを宿まで送って行ってくれるか?」
「はい、良いですよ。○○さん、行きましょうか。」
「おじいさん、ありがとうございます。タケルさん、お願いします。」
○○が微笑みながらおじいさんに別れを告げ、タケルと一緒に宿へと向かった。
宿までの道中、○○とタケルは話しが弾み、昔からの知り合いのような錯覚になった。
途中、タケルが大きな噴水のある公園に連れて来てくれ、二人ベンチに並んで座って色々な話しをした。
たまたま公園の側を歩いていたリュウガとシンは、○○が見知らぬ男と楽しそうに話しし
ている姿を見つけるとシンは、苦々しい思いが湧き上がり不機嫌極まりない雰囲気を纏い
始めた。
リュウガがおどけた口調で「あいつもなかなかやるな、早速、男を見つけたか」とガハハ
と笑い飛ばすリュウガの顔をシンは、睨みつけていた。
「船長、笑っている場合じゃないですよ。一人で町をうろつくなとあれほど言ってあるのに。」
「シン、そう言うな。もう何日も知らない町であいつ一人にしていたんだ。退屈で寂しかったんだろ。」
「もし、あの男が人攫いとかだったらどうするんですか?」
「シン、お前、妬いてるのか?」
「俺が嫉妬なんてありえないでしょ。色々と迷惑を掛けられるのが嫌なだけですよ。」
シンの言葉にリュウガは、苦笑いを浮かべると「行くぞ」と言ってその場を立ち去った。