船医 ソウシ

□十日戎
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「ねぇ○○、君はどうして勝手に街へ行ったの?」
「ご、ごめんなさい。」
いつもの優しいソウシの顔ではなく、静かな怒りを纏っていた。
○○がソウシに黙って街に行った事に注意をしていた。

「どうしてなのかな?私に言えない?」
「あ、あの・・・ヤマトと同じお祭りをしていて・・・どうしても行きたくて・・・」
「それならどうして私に言ってくれないの?言ってくれたら連れて行ってあげたよ。」

最近、医務室で忙しそうにしていたソウシに声を掛けにくかった○○は、お祭り好きな
ハヤテを誘って街へと繰り出して行ったのだ。

「やっぱり、おじさんよりハヤテぐらいの若い子と一緒に行くほうが楽しいんだね」
「そんな事は、ないです。ソウシさんは、おじさんじゃないですし、ソウシさんと一緒の
 方がもちろん、楽しいです。でも・・・」
「なんだい?言いたい事は、はっきり言って」
「だって・・・ソウシさん、最近、忙しそうだったし・・・声を掛けにくくって・・・」

クルッと向きを変え、ソウシに背中を向けた○○を後ろから抱きしめた。

「だからって他の男を誘って街へ行くなんてね。私の事、嫌いになった?」
「えっ、ソウシさんを嫌いなんて・・・そんな事ないです!」

ソウシの腕の中で顔だけを振り向けば、悲しそうな顔の○○に思わず
胸の中に閉じ込めた。

「ソ、ソウシさん、苦しい。」
「ごめんね。少しの間、我慢してくれるかい?こうしていたいんだ」

胸の中で頷く○○もソウシの胸に顔を押し付けた。

「○○、俺に気を使う必要ないんだよ。俺達、恋人同士だろう?
もっともっと俺に甘えて欲しいんだ。だから、どんな時でも何でも一番に
俺に話してくれるかい?」
「はい。ごめんなさい。ソウシさんに色々負担を掛けたくなくて・・・」
「俺は、○○の言う事なら負担なんて思わないよ。返ってうれしいんだ。」
ソウシが○○を少し離すと優しく口付けを落とした。

「ヤマトと同じお祭り、明日もあるの?一緒に行こうか」
「はい!うれしいです!明後日もあるんですよ。」
「何のお祭りなんだい?」
「ヤマトの西でのお祭りなんですけど・・・十日戎って言って9、10、11日の
 3日間開かれていて商売繁盛の神様なんです。私達も一種の商売業でしょ?」

楽しそうに話す○○と指きりをした。

(商売業かぁ、○○ちゃんは面白い発想するよね。確かにお宝で生活しているけどね。)



ソウシと○○は、揃ってお祭りに行くとあちらこちらから
「商売繁盛、笹持って来い!」と掛け声が聞こえ、巫女の格好をした福娘さん達が
笹や吉兆を売っていた。

「ソウシさん、笹勝ってもいいですか?でね、食堂に飾りたいの」
「そうだね、商売繁盛なんだもんね。買おう。」
「やったぁー!」
飛び上がらんばかりに喜びを表す○○に微笑んだ。

二人で笹を買い、たくさんの吉兆が並べらており、選ぶのに悩んでいると
福娘さんから「吉兆が5つのセットがありますよ」と教えてもらい
そのセットを買って笹に一つづつ付けた。

笹を持ちながら祭り会場を練り歩き、何軒かの屋台を覗きながら
船に戻って行った。

船に着き、早速、食堂に笹を飾ろうとしているとガヤガヤとみんなが
集まってきた。

「おい、何してんだ?」
「ナギさん、商売繁盛の笹です。ヤマトの西の方のお祭りなんです。」
「○○さん、貸してください。僕が飾りますよ。」
「トワくん、ありがとう」

トワが食堂に笹を飾ってくれ、○○は満面の笑みで見ていた。

「このお祭りには、掛け声があったよね。○○ちゃん」
「はい。」
「何て言うんだった?」
「行きますよ。商売繁盛で笹持って来い!」

○○が大きな声で掛け声を叫んでいるとリュウガが食堂に入ってきた。

「○○、何叫んでんだ?」
「船長、十日戎の掛け声です。ほら」

○○が指差した場所に笹が揺れている。

「色んな物がぶら下がってるな」
「吉兆って言うものです。」
「そうか、せっかくだしよぉ、商売繁盛の宴でもするか!」
「船長・・・ただ、飲みたいだけですよね。」
「そうだ。ナギ、宴の準備宜しくな」
ガハハと笑ってリュウガは、食堂を後にした。

宴と言えば甲板で行われるが、今晩は笹が飾ってある食堂で行われる事となった。
ナギと○○は宴の準備の為、厨房へ向かった。



「商売繁盛を願って乾杯」
「乾杯」
リュウガの乾杯の音頭で宴が華々しく始まった。

今宵もシリウスは、酒を酌み交わし夜が更けていった。


end

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