船医 ソウシ
□梅は咲いたか桜はまだかいな
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物資補給の為、立ち寄った港町。
○○は、ソウシと一緒に薬品や器具等を調達しに町へと来ていた。
両手いっぱいの荷物になってしまい、一度、シリウスに置きに行くことになった。
港へ戻る途中、たくさんの出店が並んだ通りに出ると○○が
「ソウシさん、あそこ見ていいですか?」
出店が並んだ一角を指差し、ニッコリと微笑んだ。
「うん、いいよ。あっ盆栽だね。」
「うわぁー、梅の盆栽だぁ。もう梅の季節なんですね。」
「海の上にいると季節感が・・・・あっ、ちょっと○○ちゃん!」
○○は、両手いっぱいの荷物を抱えながら嬉しそうに沢山の盆栽が並んだ出店に走り寄って行った。
「○○ちゃん、ダメじゃないか!勝手に走って行くなんて!両手に荷物持ったまま走ってコケたらどうするの!ケガどころじゃ済まないよ!」
「ご、ごめんなさい。」
「○○ちゃんがケガでもしたら私は、とても悲しいんだからね。もう、勝手に一人で走っちゃダメだよ。」
「はい。ソウシさん、ごめんなさい。」
シュンと俯く○○に店のおじさんがニコニコしながら
「お嬢ちゃん、ヤマトの娘かい?」
「はい。そうです。ホントに見事な盆栽ですね。」
「お嬢ちゃん、盆栽好きなのかい?だったらこれなんかどうだい?見事じゃろ?」
店のおじさんが見せてくれたのは、紅梅のしだれ梅と松を寄せ植えした盆栽。
梅の根元には、ウグイス。松の根元には、鶴が配置してある。
目を輝かせて盆栽に見入る○○が「竹の盆栽もいいな。」とポツリと呟いた。
「お嬢ちゃん、見る目あるねぇー。こっちの水栽培の竹もいいよ。」
一つ一つ手に取って眺めている○○の姿を見つめていたソウシは、店のおじさんを手招きし、盆栽の手入れの方法や育て方等を念入りに聞いた。
「ねぇ、○○ちゃん。一つ買おうか?」
「えっ、ソウシさん、悪いですよ。それに海の上だと潮風にやられませんか?」
「たぶん、大丈夫だと思うよ。それにヤマトの海岸沿いには、たくさんの松の木が
植わっているよね。」
「そうですけど・・・あ、嵐に巻き込まれたら落ちて割れちゃう。」
「それも大丈夫。シンは、嵐を避けて航路を取っているからね。」
「えっ、でも・・・うまく育てる自信無いし・・・せっかくソウシさんに買ってもらったのに枯らすのはイヤだし・・・」
「それも大丈夫。今、店の人から手入れ方法とか聞いたよ。だから○○ちゃんの気に入った盆栽を一つ、買おう。私も見てたら欲しくなっちゃったよ。」
「ソウシさん、ありがとうございます。嬉しい。」
ペコリと頭を下げた○○の頭をソウシは、クシャっと撫でた。
「○○ちゃん、どれがいい?」
「この紅梅と松の盆栽が良いです。」
「じゃ、これにしようか。おじさん、これ包んで下さい。」
「お兄さん、これに竹の盆栽もセットで買いなよ。松竹梅って揃って縁起がいいよ。」
「じゃ、この竹も包んで」
「ソウシさん、二つも買うの?」
「うん。」
「そ、そんな悪いですよ。どれか一つにしましょう。」
「いいの、いいの。縁起が良いって聞けば、揃えたくなっちゃったよ。」
「はい、これ。毎度あり。」
店のおじさんの威勢の良い掛け声を受けた二人は、すでに両手いっぱいの荷物に盆栽まで
加わった。
「ごめんね。○○ちゃんにまでたくさんの荷物持たしちゃって。」
「いえ、私の方こそ盆栽買ってもらって悪かったです。これくらい大丈夫ですから。」
「そう、あまりにも辛かったら遠慮なく言ってね。」
「はい、でも大丈夫です。」
港までの帰り道、盆栽を置く場所を部屋にするか医務室にするか話しをしながら二人、肩
を寄せ合いながら戻って行った。
「梅は咲いたか桜はまだかいな」と口ずさみながら・・・・・
end