君と僕。 short

□珈琲よりも苦い現実
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いつもより女子が騒がしい。



そう気付いたのは学校に着いてからだった。



「ねぇ要」



「何だ?」



「今日何かあるの?」



そう言うと要はばつが悪そうな顔をして答えた。



「あるも何も今日は…その……バ、バレンタインデーだろっ」



そうか、そういえば最近スーパーやコンビニで沢山チョコレートを売っていたな。



別に好きな訳ではないので気に留めていなかったが。



「なーに考えてるの、要」



「な、何も考えてねーよ!」



そんな訳ないでしょ。



「わー図星だー。要のムッツリスケベー」



「そんなんじゃねぇ!」



ベシッ



「わー要が殴ったー。暴力はんたーい」



「元はと言えばお前が悪いんだろお前が!」



だって要の嘘って分かりやすいからついからかいたくなるんだもん。



そう言っても要が素直に認める訳が無いので、心の中だけに留めておく。



「悠太に言い付けてやるー。助けてー悠太ー」



「ちょ、逃げんな!」



要の呼ぶ声を無視して悠太に助けを求める為に廊下に出ると、悠太のクラスの前の廊下に悠太はいた。



「悠「浅羽君っ!!」」



俺が悠太、と呼んだとほぼ同時に誰かが悠太を呼んだ。



「どうしたの、河野さん?」



悠太は俺の声には気付かず、河野さん、と呼んだ女の子の方を向いた。



どうやら俺の声は書き消されてしまったらしい。



しょうがない、もう一度呼ぼう、とした時、河野さんは小さな箱を差し出した。



「あのね、これ作ったの!!だから、その…受け取って!!」



箱の中身は手作りのようだ。



そうとう苦労して作ったのだろう。



その証拠に彼女の目の下には隈が出来ている。



きっと美味しいんだろうな。



悠太の事だからきっと他にも沢山貰っているだろう。



家に帰ったら悠太に他に貰ったやつと一緒に少し貰おう。



「…ごめん、受け取れない」



え…?



てっきり貰うと思っていた俺は驚いた。



あの心優しい悠太が受け取らなかった事なんて、一回も見た事が無かったからだ。



「何で…?」



「好きな子がいるから」



悠太に好きな子がいる。



そんな事、今まで一度も聞いたことが無かった。



「(悠太に好きな子がいる…)」



「ありがとう河野さん。気持ちだけ受け取るよ」



何故か胸が痛んだ。



そしてその痛みは中々引かないまま、俺は家に帰った。
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