テニスの王子様 Short
□Annular eclipse
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「明日って金環日食だよね。」
「ああ、そうだな。」
「蓮二や赤也達と見る予定なんだけど、真田も一緒に見ない?」
「幸村がいいなら俺は構わないが。」
「じゃあ一緒に見よう。7時20分ぴったりに校門前だよ。」
「?わかった。」
…とは言ったものの、ぴったりに、とはどういう意味だろう。
俺自身、金環日食には興味は無かったが、幸村と共に過ごしたいと思ったから受けた話だ。
ぴったりに、が気になる点ではあるが、気にしない事にした。
俺は明日の荷物の準備をしながら、昔祖父から聞いた話を思い出した。
確か、日食は肉眼で見てはいけない、という話だった。
蓮二の事だから用意周到だとは思うが、念のため、遮光板を持っていく事にした。
翌朝俺は、幸村に言われた通り、7時20分ぴったりに校門前に着いた。そこには既に幸村がいた。
「おはよう、真田。」
「ああ、おはよう、幸村。」
「屋上の方が見やすいから、屋上に行こう。」
そう言われて俺は幸村と屋上に向かう。
「なぁ、真田。今日、何の日か覚えてる?」
「金環日食の日では無いのか?」
「まぁ、そうなんだけど、それ以外に特別な日。」
「それ以外でか?」
俺が首を傾げながら歩いていると、屋上への扉が開いたと同時に、前方から聞き慣れた声がした。
「「「「「「誕生日おめでとう(ございます)、真田(副部長)(弦一郎)!!」」」」」」
これか、幸村が言っている特別な日は。
正直、自分でも忘れていた。元来、誕生日などの記念日に特別何かをしようという性格では無いので、あまり意識していない。
「おめでとうございます、副部長!!」
「また老けたんじゃの、真田。」
「おめでとうございます。」
「盛大に祝ってやるぜぃ、ジャッカルが!!」
「また俺かよっ!!でも祝うのは俺だけじゃねぇぜ。」
「細やかだが、俺達からのプレゼントだ。受け取ってくれ。」
蓮二から赤いリボンがかかった箱を渡された。
あまり意識していないので、家族以外の他人に祝われる、というのがとても新鮮に感じる。
増してやプレゼントなど、以ての外だ。
「ありがとう。」
「開けたら?」
「ああ、そうする。」
俺は赤いリボンを引き抜き、箱を開けた。
すると、中には書のような物が入っていた。
「皆、いつも真田から書を貰ってるからね。今回は逆に皆から贈ろうって話になったんだ。」
「ありがとう。」
中には文字が汚くて読めない物もあったが、これも気にしない事にした。
「先輩達、日食始まっちゃいますよ!!」
「ほら、真田も見よう。」
「「待て、鞄から遮光板を出す。」」
「…と、弦一郎が言う確率、100%。」
「…。」
「遮光板なら、俺が用意してある。ほら、弦一郎。使え。」
「すまない。」
遮光板から太陽を見ていると、日食が始まった。
俺が思っていたより、何倍も興奮するものだった。
「なぁ、真田。」
「ん?何だ?」
「金環日食って、指輪に見えるよね。」
「ああ、そうだな。」
「俺もあんな結婚指輪、真田から欲しいな。」
「っ!?ゆ、幸村?」
「真田以外からなんて欲しくない。」
まさかこんな時に言われるとは思ってなかった。
「真田?」
「…これはまた、最強の殺し文句だな。」
「ふふっ、嬉しいな。愛してるよ、真田。」
「俺もだ、幸村。」
「…先輩達、あの二人、完璧に自分達の世界に入っちゃいましたよ。いいんスか?放って置いて。」
「あの二人ならもう放って置いていいだろう。」
「プリッ。」
また殺し文句を聞きたいから、俺はずっと幸村が側にいる事を望む。
END