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□嘘
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「もう、行っちゃうんだ…」
病床に伏して驚くほどに衰弱しきった目の前の大切な人
「あぁ、明日の夕刻にでも屯所を出る。」
そうだ、俺たちは戦いに行く
こいつはもう戦わなくてよい人間だ。
「そっか…」
総司の顔が暗くなる
この顔を見ていると
こいつに何度背を預けただろうか
こいつの強さにどれほど憧れを抱いただろうか
そのような事ばかり考えてしまう。
「俺たちは先に行く。だから、総司お前も後から「ねぇ」」
俺の言葉を遮り総司が口を開く
「なんだ?」
「一君はさ、嘘つかれるの嫌?」
俯きながら訪ねる
どのような顔をしているかはわからない
しかし、俺に問うたその声が僅かに震えていた。
「当たり前だろう。人に嘘をつかれて平気な人間がどこにいる?」
「そうだよね。ハハ…ねぇ一君」
ゆっくりと顔を上げる
「僕はもう君たちに追いつく事は出来ない」
「総司!!」
泣きそうな笑顔でつづける
「だからここでさよならだね」
「やめろ!そのようなことを言うな!!」
最後などと、別れなどと、
そのような言葉聞きたくない
「それ以上なにも言うな!!」
「一君!!ちゃんと聞いて。そして、今から言う最後の嘘をどうか許して…」
今にも泣きそうな顔で、声で、訴えられる
「嘘など許す。だから、そのようなことを言わないでくれ」
「一君、僕は君の事が嫌いになった。だからもう忘れてバイバイ」
また、泣きそうな笑顔…
「総司…」
「もうこの部屋から出て行って…早く!」
俺は戸に手をかけ総司を背にこう呟いた
「俺はお前が好きだった」
俺が出て行った後あいつは
「今までありがとう。ごめんね大好きな一君
どうか、生きて…」
と呟き涙を流した。
その横顔を夕日が優しく照らした

最期の嘘は優しい嘘でした 忘れない
あの日見た空茜色の空を ねぇいつか思い出すでしょう
果たせなかった約束を抱いて 二人歩き出す…
                シド 嘘
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