短編

□重く圧し掛かるのは不安と絶望のみで
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「キミには僕だけで充分だよ」


そう冷たく笑う白蘭の言葉とともに私の光りは奪われた。
異常な程まで白い白蘭の部屋にいたのに、次に目を開けたらそこは先程とは真逆の真っ黒な世界だった。否、もしかしたら目を盗られたのかもしれない。自分自身でさえも認識出来ない世界に目が慣れることはなく、ただただ"黒"が何処までも何時までも続くだけだった。
何も見えない。何もない。手探りであちこち歩いてみるけれど、壁にぶつかることも、何かに触れることもなかった。
恐い。判らない。嫌だ。黒しかないこの世界に気が狂う。ガタガタと寒くもないのに体を震わそうとした。だけど体がちゃんと震えているのかが分からない。そればかりか"自分が何処にいる"のかさえも判らなくなってきた。

何で?何で?私はここにいるよ。誰か気付いて。助けてよ。声が枯れる程叫んでるのに、それが音になることはなく、やはり黒が広がるだけだった。(あぁ、声も盗られてしまった)


「どう気に入ってくれた?」


すると何処からか白蘭の嬉しそうな声が響いてきた。クスクスと楽しそうに笑う白蘭の声は反響してる様でぐわんぐわんと四方八方から頭に響いてきた。


「そこならキミは何も見えないし、何も感じない。誰もキミに気付くことはない。でもね、僕だけは別。僕だけはキミを見付けてあげられるんだ。ねぇ、これってすっごく素敵なことじゃない?」


うっとりと何処か夢心地な声色で白蘭は言うが、私には悪魔の囁きにしか聞こえなかった。何も感じず、誰にも気付いてもらえずに、ただこの黒だけの世界を漂っていろと言うのか。嫌だ嫌だ嫌だ。そんなの嫌だ。恐怖に心が凍り付く。絶望に吐き気が止まらない。けれどそれさえもじわりじわりと黒く塗りつぶされてしまいそうだった。



「大丈夫、死ぬことはないから。僕がずっとキミを見ててあげるよ」




何も見えないのに、くつりと笑った白蘭の姿は鮮明に見えた。

















【重く圧し掛かるのは不安と絶望のみで】


(自分が誰かも段々分からなくなる)


いっそ殺してくれと叫ぶ声さえも黒く塗りつぶされた




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