シリーズ
□この出会いに意味があるのなら
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人間が書いた本という文字を綴った道具の中に『我輩は猫である。名前はまだ無い』と書かれた物があるそうだ。私に言わせればそんな猫などそこら中にいるのだから本などという物に取り上げる事ではない。
現に私がそうだ。
この世に生を受けてから私は猫であるし、名前など無い。
親兄弟はいたが、今彼等が何処にいてどうしてるのかなんて知らない。と言うより興味が無い。
所詮、私達猫(人間で言う野良猫)は我が身を守る事を第一であり、自分の命を明日に繋いでいく事が最も重要なのだ。
栄養分を確保することに親兄弟など関係ない。喰うか喰われるか。
否、私達の場合はメシが食えるか食えないかであり、その為にメシを確保する縄張りも大切になってくるし、奪い取る、または取られない様に守る為の強さも必要だ。
生きていく事はまさに弱肉強食なのであり、それが私達の世界でもある。
しかしながら、私は今日でその生活も終わりを迎えるらしい。
(あぁ、雨まで降ってきた…)
以前胃袋に食べ物を入れたのはいつだっただろうか?
それを忘れてしまうほど私は食事にありつけてなかった。
当たり前だが人間と同じ様に猫だってある程度栄養を摂らねば生命を維持する事は出来ない。
体が動かない。
目の前が霞む。
それに気付かない振りをしてここまできたが、どうやらそれさえも出来ない程体は弱ってしまった様だ。
私は歩るくのを止めてその場に蹲った。そんな私を嘲笑うかの様に空からは雨も降ってきた。
あぁ、雨はこんなにも冷たかっただろうか?
だったら私はあのポカポカした日差しに包まれて、フカフカの草原のベッドの上で眠る様に死にたかった。
そんな戯言を抱きながら、私は迫りくる終焉を待っていた。
「ウチ、イタリアにも三毛猫がいるの初めて知った」
すると不意に雨が止んだ。
不思議に思い、ゆるゆると重い瞼を開けると、そこには傘を差した金色の髪の毛の男がいるではないか。さらにその男は座り込み、物珍しそうにジロジロと私を見ていた。
「ねぇ、死ぬの?」
失礼な奴だ。
人の事(否、猫の事か)をジロジロと見るだけではなく、今死ぬのかと瀕死の私に聞いてくるのか。何とも腹の立つ人間だ。その腑抜けた顔に爪を立ててやりたかったが、今の私はそんな力など何処にも無かった。
早く私の前から消えろ。
私は見世物ではない。
そんな思いを込めてギロリと私は力の限りその男を睨んだ。
しかし、
「綺麗だ」
その男はクツクツと嬉しそうに笑い、おもむろに私を抱き上げた。
男の服に濡れた私の水気が移っていったのだが、それを別段気にする訳でもなく、私を抱えたままスタスタと何処かに向かって歩き始めた。
「アンタが死ぬのはもったいない」
男がまた失礼な事を言うので、私は男の服に思いっきり爪を立ててやった。
【何が最善かなんて分からなかった】
(痛たた、ちょっと爪立てないで)
ただ何かしたかった