シリーズ

□雀呂逆トリ1
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「つまりここは俺様のいた世界とは別の世界で、俺様は何らかの原因でここに来てしまったということか」

「まぁ、そんな所です」

「ふはははは!そんなものでこの俺様を騙そうとしても無駄だぞ人間!」

「はぁ…。じゃあ、この現状をどう説明するんですか?」

「そ、それは…。えぇえい!俺は決して騙されんぞ!!」


ギャンギャンとまるで小さな犬が威嚇でもするかの様に騒ぎ出した。
いや、犬の方がかなりマシだ。犬だったら可愛いし、吠えても力ずく、じゃなくて、躾の一貫として叱ったりすれば治まるだろうし、何より「犬を拾って家に連れて帰る」ってのは普通のことで、何もおかしいことはない。
でも、目の前にいるのは犬とかそんな可愛らしいものでもなく、私と同じ言葉を話すし、私と同じ様な容姿をしている。が、もう一つ言うと人ではなくて、二つ目を言うと、



「この大妖怪、幻術使いの雀呂様が人間の言葉に惑わされるものか!!」



大人気コミック「最遊記」の中に出てくるキャラクターであるということだ。
昔は単行本も持ってたから分かる。あの漫画に出てくる独り言体質のちょっと頭の悪い雀呂だ。「ふはははは!」なんて笑う奴はそうそういないし、何より尖った耳と、鋭い爪が私たちとは全く異なった生物だと証明している。
まぁ、そんな現実にいるはずのない雀呂が何で私の目の前にいるかと言うと、家の前でバタリと倒れてたんだコレが。最初は誰か分からなかったし、怪しさ満点だったし、邪魔だしで、無視しようとしたんだけど、掠れた声で「み、水…」とか言われたらほっとけないじゃん?
で、家に連れて帰って介抱してたら目を覚ましたんで、今の状況を当たり障りのない程度に説明してあげてるんだけど中々信じてくれず、現状に至ると言う訳です。
嘘だと思うでしょ?どちらかと言うと嘘であって欲しかった。私の痛い夢だと思いたかったよ。気付いた時は私も全否定したさ。
でも、起きたら漫画そのままのアホキャ…、独特なキャラだし、頬を抓っても痛いしで、現実として受け止めるしかないじゃないか。
っていうかぶっちゃけ面倒臭い。正直かなり面倒なことに首を突っ込んだと今さらながら後悔している。



「…もし、」

「はい?」

「もし貴様が言ってることが本当なら、貴様は元の世界に戻る方法を知っているか?」



先程と打って変わって、真剣な面持ちで私に雀呂は尋ねた。その鋭い瞳は真直ぐ私に向けられ、その力強さに威圧されるけど、瞳のずっと奥、そこに不安の色があったのを私は見つけてしまった。



「…残念ながら、私は貴方を元に戻す方法は知りませんし、思い付きもしません」

「…そうか」

「でも、」



面倒臭いのは嫌い。
平穏な日々を送りたいと思うし、誰しも同じことを思うはずだ。
でも、



「帰る方法を一緒に考えることは出来るし、それまで貴方にこの世界での生き方を教えてあげることも出来ます」



拾った"動物"は最後まで面倒をみるのもとても大切なことだと私は思うんだよね。



「…ふん。貴様のことを信じた訳ではないからな。ただ、手頃な宿として貴様を利用するだけだ、そのことを忘れるなよ!」

(あ、やっぱり面倒臭いかも)





という訳で、本日より私は雀呂ならぬ妖怪を飼うことになりました。






















【非現実的な落し物】

(とりあえず服を買ってきますね。その格好だと見てて寒そうだし、恥ずかしいです)
(何だと?!俺様の格好の何処がおかしい?!)
(素肌にジャケットはないです。有り得ないです。信じられないです)
(…貴様はハッキリとものを言うな)
(えぇ。素直であることを心情にしてますから)



猛獣よりも質が悪い?




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