シリーズ

□雀呂逆トリ3
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「うむ。こんなものだろう」


ユラユラと風に揺られる服を見て、俺は何ともいえない達成感を一人噛み締めていた。
この世界に来てから何日か過ぎたが、俺はまだ元の世界に戻れないでいた。この世界に来てしまった原因が分かれば話は早いのだが、悲しいことにこの俺の頭脳を持ってしても原因が何なのか分からなかった。
チッ、こうしてる間にも我が宿敵である三蔵一行は西へ進んでいるというのに…。俺様なくして誰が奴等を倒すというのだ!!そう俺が零した時、あの女は「焦ると逆に上手くいきませんよ」と笑って答えたのを覚えている。
ふん、貴様はもう少し慌てる、否、ちゃんとするべきなのだ!俺様がいなかったら貴様は一人で生活する所か、起きることもままならないではないか!
見よ!この皺一つない洗濯物達を!俺様にかかれば、洗濯の一つや二つ、掃除の三つや四つ造作ないことなのだ!
ふはははは!やはり、俺様は何処の世界へ行っても完全無敵の大妖怪、雀呂様なのだ!



「と、こんな事をしている場合ではない。今日は客が来るとか言っていたな」


己の有能さを再認識した俺だったが、今朝方あの女が慌てて家を出ていく間際のことを思い出したので、その準備に取り掛かることにした。



『あ!今日もしかしたら私がいない間にお客さんが来るかもしれないんで、来たら戸棚の一番上にある缶詰出してあげてください!』



(缶詰を客人に出す奴が何処にいる)


その非常識な人間が俺のすぐ近くにいる訳だが、どういった奴が訪ねてくるのかも聞けなかった俺はあの女の言われた通りに準備するしかなかった。
だが、やはりおかしい。
いつもこの家に人が訪れようものなら、見つかったら面倒だとか吐かして俺様を風呂場やトイレなどに無理矢理押し込める癖に、今日に限って迎え入れろとは一体どういうことだ?考えられることは、その客が人間ではないということだが…。
悶々と一人考えながら、奴の言っていた戸棚を開けて例の缶詰を手に取った時だった。



カリカリカリ



「ん?、窓からか?」


不意に聞こえたのは何か引っ掻く音。その音は先程洗濯物を干していたベランダへと続く窓から聞こえてくる。
不思議に思い、缶詰を手にしたまま窓へと近付いてみると、


「ね、猫…?」

「にゃー」


そこには薄汚れた猫がちょこんと座り込んでいた。
しかも、その猫は早くここを開けろと言わんばかりに俺を見上げているではないか。
この猫があの女の言っていた客なのか?
手に持ったままだった缶詰を見てみると、そこには猫の絵と所々読めない文字が書かれていた。だが、俺には分かる。これはこの猫の餌であり、あの女が言っていた客というのが、この猫で間違いないであろう。


「ふん、全くあの女は何を考えているんだ」


ブツブツとあの女の文句を呟きながら、俺は猫を入れるために窓を開けてやった。
スルリとその猫は家の中へ入ると、慣れた様子で窓のすぐ側にあるソファーの上に飛び乗り、そして我が物顔で寛ぎだしたのだ。ちなみにそのソファーは現在俺の寝床として使っているものだ。更にいうと猫は外から入ってきているので当然、泥や砂やらがソファーに付着してしまっている。
何とも図々しい猫だ。
しかしそこは大妖怪である俺様。たかが猫一匹に怒鳴り散らす様な野蛮なことはしない。
俺は猫の近くにいくと、落ち着いた調子で声をかけた。


「おい、猫よ。そこに寛ぐのは勝手だが、汚い体で座るのは止めろ。そこは今俺の寝床でもあるのだ」

「……」

「おい、猫!」

「くあー」

「クッ!貴様猫の分際でこの俺を馬鹿にする気か!」


しかしその猫は俺の言葉を無視するだけに止どまらず、あろうことか、のんびりと毛繕いをしだしたではないか!
クッ!この猫はどうやら誰を目の前にしているのか理解してない様だな。ふふふ…、なら身を持って味わうが良い!この雀呂様の恐ろしさを!


「ふはははは!ならば貴様はこの雀呂様直々に綺麗にしてやろう!猫よ、有り難く思うが良い!」

「フシャー!!」

「痛っ!えぇえい、小癪な!!無駄な抵抗は止めて大人しくしろ!」




猫はもちろん俺様の手によって見違えるほど綺麗になったが、その激闘はあの女が帰ってくる数分前までにも及ぶもになった。




















【激闘な一日】

(ただいまー、って何で雀呂さん何で傷だらけなんですか?!)
(貴様の客のせいだっ!)
(にゃーん)



本気を出さないのは彼の優しさ?




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