シリーズ

□雀呂逆トリ4
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「冬になるとこうやって家にくるんです」


膝の上で満足そうに喉を鳴らしている猫を撫でながら女は言った。
俺様の努力の末に薄汚れた体から元の真っ白な体に戻った猫は、当たり前の様にこの家に居座っていた。しかも、媚びたりはしないのだが、あの女が家にいる時はその側を離れようとせず、いつも近くに居場所を作っていた。今も食事を終えた猫は奴の膝の上で寛いでいる。


「その猫は貴様の猫ではないのか?」

「違いますよ。たぶん野良猫さんです。昔、怪我してたのを家に連れて看病してあげたんですけど、ちょくちょく家に居着く様になったんですねー」


良い餌場だとでも思われたんですかね、と女はまた呑気に笑って話した。
呆れた女だ。俺を助ける以前にもこの猫を拾って看病していたとは…。お節介にも程があるというものだ。
…ちょっと待て。まさかこの女、この俺様を猫や犬の類いと一緒に考えてないだろうな?!


「おい、貴様。まさかと思うが俺様を手負いの犬や猫と一緒にしてないだろうな」

「……バレました?」

「貴様!!この俺様を猫や犬など下等な生物と一緒にするとはどういうつもりだ!!」

「痛っ!えぇええい!何をする猫!」

「きっと自分が侮辱されたのが分かったんですよ」


俺があの女に怒鳴ると、それまで奴の膝の上で寛いでいた猫が突然俺にその鋭い爪で襲いかかってきた。
クッ!この猫、俺様が本気を出さないのを良いことに付け上がりおって!この雀呂様が本気を出せば貴様ごときに遅れを取るはずがなかろう!えぇええい!!いい加減その爪を引っ込めんか!!
そんな猫と俺様の決死の死闘を女は何が面白いのかケラケラと笑いながら傍観していた。



「でも雀呂さんはその子と違って、出てったら戻ってこないでしょうけどね」



しかし、不意に見せた顔。
寂しさと悲しさを覗かせた顔で、女が笑って呟いたのを俺は見逃さなかった。
この女は何を言っている?
俺様はこの世界の住人ではないのだ。それは当たり前のことだろう。
いや、それよりも何故貴様はそんな顔をする?別に俺様がいなくなろうと貴様には関係ないことだ。なのに何故…。


「俺は、」

「さ、猫さん。雀呂さん苛めはそれぐらいにしてもう寝ようね」

「苛められてなどいないわ!!」

「あ、それはごめんなさい。ふふ、それじゃ、おやすみなさい雀呂さん」

「…あぁ」


俺が答えようとすると、女は猫を抱き上げてスタスタと寝床へ行ってしまった。しかも先程見た顔は幻だったのではと思うぐらい、いつも通り不抜けた顔と失礼極まりない言葉を残してだ。
何なのだ!あの女は!人が心配をしてやればふざけおって!いや、別にあの女の心配などしていない!断じてしていないぞ!俺様は早く元の世界に戻る方法を見つける為にあの女を利用してるだけだからな!


(だが…)



ここは俺の世界とは違う。
早く戻らなければならない。
あの女のいない殺伐とした世界に。



(あの猫がここに戻ってくる理由は分かる気がする)




不意に見えたあの女の顔がこびりついて離れなかった。

















【不可逆的な感情】

(あの世界にアイツはいないのか)

キミがいないのが当たり前だというのに




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