短編

□それは気付かない程の傷痕をつける
2ページ/4ページ

あの一撃によりモスカはコントロールを失い停止。マスター自身もその時に大きな傷を負ってしまった。
私には治療機能など付いていない。出来ることといったら布で傷口を塞ぎ、こうして背負って運ぶぐらいだ。
主に守られ、その主を医療班の元へ連れていくことしか出来ない自分がもどかしくて仕方なかった。


「…降ろして」

「出来ません。一刻も早く医療班の元へ、」

「ウチの"命令"が、聞けないの?」


主を失う訳にはいかない。
だけど、主の"命令"は絶対。

逆らうことは、

許されない。


「…Lo so, il mio Signore」


了解の意を伝えると私は出来るだけ傷に響かぬようそっとマスターを降ろし、横たわらせた。
傷口からはドクドクとおびただしい量の血液が流れマスターの服を黒く染め上げている。どれだけキツく止血をしようと流れ出る量は変らない。


「マスターお願いです。医療班の所へ行きましょう?今行けばまだ、」

「アンタもしつこい、な…。ウチにだって、それぐらい分かる。もう、ダメなんだろ?」

「……」


その言葉に私は押し黙るしかなかった。
呼吸、血圧、心拍数。
どれもこれもどんどん低下していて、唯一上昇しているものと言ったら出血量ぐらい。
自分の画面に映し出されている主の情報は悲惨なもので、

絶望的だった。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ