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□おかえりとただいま
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遅い、
遅い遅い遅い遅い、

今日は早く帰れそうなんだ。
って言ってたくせに、
久しぶりに有利のカレーが食べたいな。
って言ってたくせに、
「……もう冷めちゃったよ。ばか。」
俺は薄暗い玄関で膝を抱え、ポツリと呟いた。

仕事のできる彼は普段から忙しく、俺が寝る前に帰ってくる事はほとんどない。
だが、今日は会社から連絡があったのだ。
嬉しくないわけがない。
だから、俺はありったけの愛情を込めてカレーを作って待っていた。
なのに、、
「……。」
置時計を見やるともう短い針はてっぺんを超えそうだった。
もう日付変わるじゃん。
きゅーっとお腹が鳴った。
もう先に食べようかな…、
何度もそう思った、しかしもうすぐ帰ってくるのではないかという希望が捨てられず結局体を動かさないまま過ぎていくのは時間だけ。

コツ、コツ、コツ、
外から革靴独特の乾いた音が聞こえ、顔を上げる。
コンラッドかもしれない……!!
しかしそれは家の前まで来ても止まる事はなくあっけなく通り過ぎてしまった。
「……。」
一度あげた顔はもう一度膝の上で組んだ腕の中へ力なく沈む。

コツコツコツ
まただ……
今度はテンポが速い。
一瞬動き出しそうになったが淡く胸に抱いた期待を押し殺し、腕を固く組み直す。
ガチャ
「有利!」
驚いたように俺を呼ぶのは愛しい人。
「……。」
彼はギュっと包み込むように俺を抱きしめた。
待ちわびていた温もりが体全体に染みわたり思わず涙がこぼれそうになる。
「すみません。有利。こんなに冷えて、、寒かったでしょう、、」
「……待ってたんだぞ、」
「ごめん、」
きっと帰りが遅くなったのは何かどうしようもない事態が起こったからなんだろう。
コンラッドは悪くない。
そう思っててはいても、まだ頭は上げられない。
帰ってきてくれて嬉しいよ、
素直にこう言えたらいいのに。
頭ではわかっていても変なプライドが邪魔をする。
「有利、」
甘い囁きが聞こえたかと思うと耳を甘噛みされた。
「何すん……あっ…うぅん…。」
突然の事に顔を上げてしまった俺だが、しまったと思ってももう遅い。
半分あきらめて口内で動く物に自らの舌を絡ませる。
甘い電流が体中を駆け巡る。
お互いたっぷりと堪能したころ、ようやく口が離れた。
「キス、上手くなりましたね。」
「うるさいっ///」
この男は!!
俺が怒らないのを見透かしたような態度がむかつく。
しかし、いつのまにかいつものように自然に話せている事に気づき苦笑いを浮かべる。
「コンラッド、」
「どうしました?」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?」
余裕なあいつに少しでも反撃だ!
と、思って言ってみたものの実際自分もかなりダメージを受けてしまった。
「お風呂にします。冷えましたから、、」
「……。」
普通に返事返したぞコイツ!!
俺が空回りしたみたいになってしまった……
「クスッ、冷えたのは有利もでしょ?安心してください。お風呂で有利もいただきますから、」
「よかっ……よくない!」
俺が慌てている間もコンラッドの言葉は続く。
「そして、そのあとご飯を食べて、、デザートに有利を……」
「またかよっ!!」
予想以上の答えに思わずツッコミがさく裂する。
「…お湯も冷たくなってると思うよ?」
「じゃあ、焚き直してる間、先に有利を…」
「そこご飯じゃないのかよ!?ってゆーか、アンタ明日も仕事だろ?大丈夫なのかよ…」
「心配には及びません。有利から元気をもらいますから。」
「あっそ、」
「冷たいですね…」
俺はリビングに向かうコンラッドの後を追いかけ、背中に力いっぱい抱き付いた。
「なぁ、、コンラッド、改めて、、おかえり。」
「ただいま。有利。」

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