未来のために・続

□41話 心の声
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「お前は…!!」
「皆本!?」
「兵部!」
「ギリアム様!」
「バカにする気か、兵部!」
 即座に銃の標準を皆本に変え、発砲する体勢に入る。
「!! おい、やめろ!!」
 ブラスターを撃ち、その弾道はギリアムの右肩に命中した。間髪入れずに、右肘でクローンの胸部をひじ打ちする。考えとは裏腹に、皆本を護るように傍に立った。

 何をやってるんだ、僕は!? こいつが撃たれたからといって、なんだというんだ!! あの時、深い考えがあったわけじゃない。いつもの気まぐれだった。ただ、こいつを殺しても、自分は成仏しないと思った。僕は、自分が全てを奪われた憎悪で生きてきたが、こいつにはおそらく、初めから何も与えられていなかった。自分より哀れなヤツへの同情だった。だから、くたばる前に自分の空虚さに気づく時間を、与えてやりたくなった。しかし、こいつの精神はもうただの黒い穴だ。生かしておくのもムダだ。こいつが死ねば、世界から害悪が確実に減る。なのに、なぜ頭を撃たなかった!? なぜ、僕は今またためらっている!?

 ふと視線を横にやれば、またあいつが現れた。

(彼なら撃たない。だろ、少佐)
 黙れ!! そのこいつが、クイーンを撃つんだ!! 自分や世界の都合を優先して、彼女を裏切る!! あの時の、あの男のように!!
(でも、未来が逆戻りしたのは、誰のせい?)
 ……。

 分かっていることを繰り返し問う『彼』にいら立ちを覚えた直後、葉の指向性音波が聞こえた。指示を出している最中に敵から奪った戦闘機が、猛スピードで頭上をかすめる。坊ちゃんはクローンを連れて脱出した。
《ジジイ、ここはヤベエ!! いったん退くぜ!! でけえ爆弾が落ちる!!》

 ブーストの影響で、超能力はパワーが半減してる。そう遠くへは行けまい。

 銃を構え直しつつ、メガネの胸倉を掴んだのを見計らって、真木が僕の腕に炭化した髪を絡める。
「だが、こっちもそれは同じか! 足手まといもいるしな!」
「いや、ちょっと!? そもそも何がなんだか! 状況を説明しろ!! 空爆があるのか!? なら、チルドレンと佐倉も…」
「いや。クイーンは…、フェザーは事態を把握してる。お前を僕らの上に落っことしたのは、偶然だとでも思うのか?」
「だからって、放置するわけには!」
「これ以上、彼女達の邪魔をするな。未来から過去に意識を送ってくるには、かなりの無理をしているはずだ。エネルギーのやりくりに苦労してるそぶりだっただろう。なのに、これまでお前のために、ずいぶんパワーを割いてきた」
「それは、主にお前のためだったじゃないか!!」
「お前にも使ったね! 少し! あそこにいるのは、全てを賭けてでも過去の世界に来ることを望んだ未来のクイーン達だ。その仕事は、最後までやらせてやるしかあるまい。チルドレンと千鳥の安全に関しても、今の僕らが出る幕はない」
「なぜ、確信を持って言える!?」
「僕達を超えた力を持つ、未来のクイーンと千鳥本人が一緒にいるんだぜ? そして、二人は外の状況に気づいてる。加えて、あれは、未来のエスパー全ての想いを束ねた集合体でもある。エスパー達の人格と記憶の情報を、時空を超えた世界のレアメタル結晶に転送する。それが『アルティメット・ブースト』だが、原型を保って送られてきたエスパーは何人だ?」
「そりゃ、チルドレンの三人と千鳥。…!」
「気づいたか。ブーストのトリガーであるクイーンだけでなく、エンプレスとゴッデス。千鳥も一緒に来ている。どの程度明確に形を留めているかは分からんが、他にいてもおかしくはない。そして、来ているべき人物の心当たりが、僕には二人いる。お前はどうだ? ま、それだけの人数がいて、あの子達を守ろうとしないわけがないのさ。」
「お前の言いたいことが、わかったような気がする」
 あの未来にならないために、僕は千鳥の側にいた。だが、それは仕事の合間やクイーン達に構った後だった。話題にすることはないが、確かにさっきの会話の中でもクイーンのことが先に出てきている。
 それほど僕は、千鳥を『大事だ』と口癖のように言っておきながら、いつの間にかクイーンの存在が大きくなって、隅っこのほうにやってきたのかもしれない。とんでもない偽善者だな。


《……千鳥。聞こえるかい? この時が終わったら、君に伝えたいことがある。戦前から続いた僕らの関係が、どんな結末を迎えようとも構わない。たった一言だけだ。待っているよ。》



→千鳥side
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