未来のために・続

□41話 心の声
4ページ/4ページ

 インフィニティ・ブーストを展開して、未来の私と話した後、薫ちゃんとユーリという少女の会話が、別の空間にいるのにはっきりと聞こえた。そして、もうすぐ彼女の限界が近づいている。
「薫!!」
「薫ちゃん!!」
「……」
「よくがんばってくれたわね。ここからは、私達の仕事よ」
 ほぼ同時に別空間から戻り、フェザーは薫ちゃんを後ろに下がらせた。未来の私達が一ヵ所に集まり、力を結集する。
「私達がここに来たのは、この瞬間を作るため。この状況を作るため」
「何をしてもムダよ! 私はもう、あなた達の所には戻れない! 殺さない限りは!!」
『いいえ。取り戻してみせるわ。もう一人の「ザ・チルドレン」が、一緒にいるから』
『私が誰か分かるわね? ユーリ』
「あなたは…! 私なの!?」
「未来の悠理ちゃん!? そっか。未来のあたし達が時間を超えて戻ったのは…」
『そうよ。私達が見てきた歴史を変えるためには、いくつかの出来事を修正するだけじゃ不十分なの。最後の鍵は、悠理ちゃんの心の中なのよ。それは、どんな超能力を使っても、誰かが外から変えることはできないわ。友達にできるのは、彼女が自分を救うのを手助けして支えることだけなの。あの子は今、自分の中に闇があることに向き合った。認めなければ、闇とは戦えない。そして、自分の闇と戦えるのは、自分だけなの』
 自分の闇。その単語を聞いて、自己分析してみる。闇を連想するのは、決まって暗い黒だ。悠理ちゃんが抱えるものが『血にまみれた己の手』なら、私は『チルドレン三人に対する嫉妬』だ。彼女と違って、すぐに払拭できるものでも、友達がいるから解消するわけでもない。
『大丈夫。もう泣かないで。私が、あなたを愛してる。たとえ、誰もあなたを許さなくても、私があなたを許します』
「うそよ!! 私は私を許せない!! 私は、みんなを苦しめた!! 誰も私を許したりしない!!」
『そうかもしれない。でも、あなたは、あなたを許していいの。未来のあなたである私は、過去の自分を、あなたを許すわ。あなたが苦しいのはね。自分が求めるものが手に入らないからよ。家族の愛情や、みんなとの絆。だけど、求めて苦しむ必要なんかないの。愛してくれる人も、愛してくれない人もいる。許してくれる人も、許してくれない人もいる。ただ、あなたは自分を愛して許してあげて。つらくて苦しくて、愚かだった自分を、こうやって抱きしめてあげて。他の誰が、あなたのつらさを分かってあげられるというの? どうか私のようにはならないで。違う未来を創って!』
『聞くな。ユーリ! 未来から来たお前自身なんて嘘っぱちだ!! そいつこそ幻だ!! 見ろ!! お前の欲しいものは全部ここだ!! これが、お前の家族だ!!』
『いいえ。私には、温かい愛情をくれる家族はいなかった。母は亡くなり、父は歪んだ愛しかくれず、兄は心を病んでしまった。でもね…』
『やめろ!!』
『でも私は、あなた達を許します。あなた達も私と同じように、ちっぽけでかわいそうな人達だから。家族すこやかに愛する能力がなかったことには、私だけでなく、あなた達にも悲しすぎる不幸だもの。気づいてあげるのが遅くなってごめんね。お兄様』
『やめろと言っている!!』
『あなたは、私よりも哀れな人でした。私がそれに気づいたのは、命が終わる時だった。昔の私に会って伝えたかったの、薫ちゃん達は、それを叶えてくれたよ。お願いよ。あなたを愛さない人達を許して、あなたを許さない人達を愛してあげて』
「できない! そんなことできないよ!!」
『できるわ。愛や許しを他人に求めないで、自分に与えてあげて。今はできなくても、いつかできるようになるわ。だって、あなたには、それを支えてくれるお友達がいるから!』
「やめて!! 私には、そんな資格はないわ!! ねえ、私なんかに。なんで私なんかのために!! なんでなの!!」
 薫ちゃんを筆頭に悠理ちゃんに抱きつき、互いに慰めあって。
『ありがとう、薫ちゃん。みんな。私ね、生まれてきてよかったよ。きっと、あの子。もう一人の私も、そう思ってくれてる』
『やめろ!! ここを出て行くなんて…! お前は…。っ!?』
『もうやめなさい』
『なぜ邪魔をする!! 父上は許さないはずだ!! まして、ここにいるあんたは…』
『そうだ。幻だよ。ユーリの中にいる幻の家族だ。あの子は強くなったんだよ。家族にただ求めていたものを、自分で作り出す力が生まれたのだ。出て行きなさい。彼女はもう、誰のものでもない』
『バカな…!!』
 幻の幼い姿をしたギリアムは、幻の中で存在する両親に消され、心象世界から姿を消した。
『行きなさい。もう私達の姿を追う必要はない。愛や優しさは求めるものではなく、学ぶものなんだ』
『あなたがそれを知った時、幻の私達は不要になったのよ。全ては、あなたの中にあることを忘れないで。幸せにおなり。ユーリ』
 ハッピーエンドになったかと思ったが、現実はそう甘くはない。ブーストで形成されている世界に亀裂が走ったのだ。
「げ。やば」
『外は今、ちょっと面倒なことになっているの。ギリアムの置き土産よ』
『テレポートする力は残ってる!?』
『さあ…。ブースト直後やし』
「なんとかいけるんじゃない?」
『…。つくづく楽観視できる千鳥ちゃんがうらやましいわ』
『ほんまや』
『いつも冷静だからね』
『じゃあ、行こうか』
 こうして私達は無事に任務を終え、日本への帰路についた。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ