りくえすと
□私も
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私の名前は、広美。小学5年生です。
「あー、やだなー」
今日は、全国一斉ESP検査がある。
「ヤダっていうことないだろ?」
そう言って私の肩に手を回すのは、クラスメートの薫ちゃんだ。なぜか、ニヤケ顔だ。
「やめなさいよー」
見事な棒読みで彼女を制すのは、紫穂ちゃんだ。検査用の紙をヒラヒラとさせて、興味なさげだ。
「せや。広美が嫌がっとるやろ?」
関西弁で話すのは、メガネっ子の葵ちゃん。肩に回された手を、葵ちゃんが払いのける。
「あーあ」
なぜ私がこんなにも検査を嫌がるのには、ちゃーんと理由がある。
数ヵ月前、高校で行われた同検査で双子の姉たちがレベル6のエスパーだと分かって、両親に即捨てられバベル入り決定だったからだ。
ちなみに検査の結果、瑠璃姉ちゃんがテレポーター。翠姉ちゃんが、テレパスだった。両親は、ノーマルだ。
そんなことを考えているうちに、私の順番がきた。
保健室の中に入って、肌が浅黒い先生の質問に答えた瞬間、けたたましいアラームが鳴った。
「…え?」
「なに!?」
検査結果は、レベル7のヒュプノだった。
(ああ。これで――)
両親から捨てられるのは、確実になった。ついでに言えば、即バベル入りになる。
「この化け物め!」
包丁やら電気スタンドやらが、私に向かって飛んでくる。お父さんが投げてきているんだ。
「さっさと出て行きなさい!」
べしっ!!
コピー用紙が、顔面に当たった。地味に痛い。ま、結果は見えてたけど。
がしゃん、ぱりんっ!
(痛いイタイいたい。やめてヤメテ。姉ちゃん達の時には、こんなにヒドくなかったのに。…なんで? なんで、私ばっかり!)
黒い感情が、胸の中で湧き上がる。
(私たちのことなんて、忘れてしまえ!)
強く、そう思った。
「…あれ?」
物が飛んでこない。
おそるおそる目を開けてみると、両親がマヌケな顔をしていた。そして、おののいている。
「大丈夫?」
お母さんが、私の頬にふれる。
「…え?」
(なんなの? この他人行儀は。どうして青い顔をして救急箱を持ってくるの? わからないよ)
「ごめんね。お嬢ちゃん」
「おい。なんでこんなに散らかってるんだ?」
その言葉で理解できた。
『私のヒュプノで私たち姉妹のことを忘れ、両親が両親でなくなったんだ』と。
悲しくて涙を抑えるのに必死になると同時に、心のどこかで『せいせいした』とも思った。
だから、玄関を出て精いっぱい作り笑いを浮かべて『他人』を装った。
「ありがとうございました」
それが、あなた達に送る最後の言葉。2人は、今までに見たことのないくらいすがすがしい笑顔を浮かべて、手を振っていた。