未来のために・続

□37話 予知
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 千鳥が沖縄のホスピスに入院してから、早1ヵ月が過ぎた。管理官の隣に座って、カツ丼(みそ汁と漬物つき)を前にする。
「その後、『京介』はどう? うまくやってる?」
「ええ。今はバベルの中を散歩しています。いい子だし、あれが兵部の分身だって意識はだいぶ消えました」
「それもマズいんじゃねえか? あの子の中に、兵部の何が入っているのかはわかったもんじゃないんだぜ。油断せずに打ち解けていかねえとな」
「難しいことを…」
「しかし、僕もそう思ってたところですよ」
「なにかあったの?」
「いや、たいしたことでは…。ただ、ちょっと…」
 みそ汁をすすりながら、皆本が昨夜の出来事を話す。

(メシができたぞー。今夜はオムライスだ)
(高カロリーだけどね)
(わーいv)
(まさか、あの――)
(メイドさんにしか作れない伝説の料理を、ご家庭で!?)
(でも、あれ? 卵でくるんでへんの? 上にオムレツ乗ってるだけやん?)
(あはは。これはね…。まず、オムレツにナイフで切れ目をいれる。で、こう裏返して広げて…。ほら)
(おおっ! なんか本格派っぽい!)
(デミグラスソースも造ったから、好みでかけてくれ)
(よし、まかせて!)
 薫ちゃんは、ティムのオムライスに『好きv』と、葵ちゃんはバレットにケチャップで文字を書いたそうだ。
(おもしろそう! 僕は食事しないけど、書きたい!)
(じゃ、あたしのに書く?)
 薫ちゃんのほうには『女王』と、皆本には『お前を殺す』と書いたそうだ。
(ちがう!! 僕こんなの書くつもりは…! 信じて!!)

 『京介』は否定したが、ちゃんと兵部がその中にいると確信できる要因だった。
「まー、あいつは兵部が復活したら、フェザーに戻るんだろうし、その時はたぶん、今の人格と記憶は兵部に吸収されるんだろ? お前のことだから、情が移ってきてるんだろうが、あまり入れこむなよ。『京介』になにかしてやったからって、兵部があっさり別人になって綺麗にさっぱり心を入れ替えるとは俺には思えねえ」
「…僕だって、そこまで甘い期待は――」
 その時、予知部から液晶パネルを通じて報告があった。
『40分後の事件予知を感知入電中! 詳細を計測中です!』
「40分なら、ザ・チルドレンも間に合います。確率変動値7でも対応できます」
「急いで食わなきゃー!」
 カツ丼を大急ぎでかきこんだ矢先に――
『え? あ、そうなんですか? ただいまの連絡は…。えー…。誤報でした。お騒がせしました』
「なんだ?」
「これで3度目ね。予知部は最近ミスが多いわ。ちょっと様子見てくる。食事が終わってからでいいから、あなた達もあとで来て」
「わかりました!」
 ノドにつっかえて、あわてて水を飲んだ。


 翌日、昨日の予知部誤報の原因である三橋姫子を呼び、検査結果が表示されているタブレット端末を持って部屋に来た。
「同じだ、皆本。昨日の結果と比較して、レベルが上昇してる。予知能力もテレパシーも両方だ」
「ノイズは?」
「消えた。レベルが上がって、コントロールが効くようになったんだろう」
「えっ。じゃあ、予知の仕事、続けられるんですか!?」
「この状況が安定すれば大丈夫だ。けど、昨日の今日で、なぜここまでレベルが上昇したのかわからない」
「だから、当面は単独でテストする。ここで独りで予知をするんだ」
「やってみます!」
 装置に横たわり、数秒もしないうちにさっそく結果が出た。
『システム起動。予知入電!! イメージ解析中! 確率変動値――計測中。時系列・位置座標計測中』
「情報が全部そろってるのか!?」
「そのようだ。ふつうは断片的だから、チーム全員の予知を寄せ集めるんだが――」
『イメージエンハンス完了』
「映像に出せ!」
 そこに映し出されたのは、ブラスターを持った皆本の姿だった。

『動くな、兵部!!』
『撃てよ、皆本。お前にはそれがお似合いだ。予知をくつがえすことなど、お前にはできないよ』

 合成音声が、淡々と告げる。
『確率変動値7』
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