未来のために・続

□38話 思い出して
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 会議室にて、以前沈黙を保ったままの管理官と賢木に、静かに諭した。
「僕はみんなを信用してる。だから、話してくれないことは、僕が知らなくていいことだと思ってる。しかし、本当にその必要があること以外は、話してほしい」
「確かに話すべきことはいくつがあるけど、その機会とヒマがなかったてゆーか、皆本クン忙しいしさあ。ホントそれだけ!」
「じゃあ、この辺で情報を整理して共有しましょう。話せることは全部」
「いいけど…。桐壷クンにも?」
「局長は責任者ですから、当然知っておくべきです。ただし、その判断は私がします。まずは、私たちに全部話してください」
「あの…。僕も一緒でいいんですか?」
「いいも悪いも、お前の本体が全ての中心だからな。むしろ、お前から情報がほしいくらいだよ」
 でも、と消極的な京介の背中を押すように言葉を選んだ。
「話を聞いて、なにか思い出すかもしれない。その時は教えてほしい」
「そうね。今なら兵部本人が口を割らないことを話してくれるかも。でしょ?」
「わかんないけど、協力します」
「じゃ、順を追っていきましょう。柏木さんが調べた極秘情報には、『伊・八号』というファイルがありました。これは、伊号中尉の仲間ですか? なにかのカプセルみたいですが、ひょっとしてこの中には、生体サンプルが?」
「そうよ」
 その肯定は、予想していたよりずっと重たい雰囲気をかもし出していた。
「あたくしと兵部が軍に入隊して、最初の実戦で保護した2頭のうちの1頭。米軍から亡命してきた超能力イルカ」
 インパラヘン王国での出来事を聞かされ、いったん頭の中で整理するようにした。
「愉快な王子がいた…。超能力触媒レアメタルの産出国ですね」
「あの国は古くからレアメタルと超能力を利用して、小国ながら他国の軍事侵略に対抗してきたんでしたね。高レベルエスパーは多くは生まれない。でも、彼らはその魂をレアメタルに蓄積することで、常にあらゆる種類の過去最高能力を保有することができたの。そして、それをつかさどる巫女のマサラちゃんは、歴代で最も強力な精神力を持っていたわ。ザ・チルドレンが彼女にあった時、能力だけでなく人格も蘇ったのはそのためよ。そして、イルカの脳が人間より発達してるのは知ってるわね?」
 そう言って、管理官は出されたコーヒーをやっと一口すすった。
「人間とはまた違う方向にですが。彼らは水中で生活しているので、三次元空間を自在に行動します。そのため、平面を基本に生活している我々より、空間把握能力が必要で、脳はそのために大きくて高性能だと聞いています」
「で、その脳に超能力を持たせたら、四次元。つまり時空間を扱う感覚も、人間よりも優れていたってわけっすね」
「予知能力!」
「伊・九号中尉の予知は、100パーセントと言われてました。人間のプレコグではありえない精度です」
「おそらく、ただ未来を予知するだけでなく、それを知った人間の行動や誤差までも瞬時に計算してたのね。チェスで何千手も先を計算するスーパーコンピューターみたいに。九号の予知を覆すのは、確かに難しいわね。でも、戦後の関係者が信じてるほどじゃないのよ。少なくとも八号がいた頃は、そうじゃなかった。どんなに動かしがたく見えても、動かない未来なんて存在するはずがないのよ。でなければ、予知なんて意味がないわ。彼ら自身もそう思ってた」
 管理官が再び過去の話をした。ドクイツ軍人と、仲間が険悪な雰囲気になったのを、彼女が一喝して最悪の未来を変え、戦闘する場所を提案したのだ。
「ね? 女のカンってバカになんないでしょ?」
「ところでその、決闘の場所って言うのはもしかして…」
「正解v インパラヘン宮殿、レアメタル闘技場。あんた達も知ってるあそこよ。あの頃はあそこにも入れたのよね〜」
 話がドクイツ軍人と別れたことにさしかかると、京介がコーヒーの入っているカップをテーブルに落とした。
「思い…出した。ファウスト君と別れて…、その後だった…!」
「その後って、なにが!?」
「クイーン…。あの後、僕は初めて見たんだ。クイーンを…! クイーンは笑ってた。とってもさびしそうに。でも、少し嬉しそうに」
「あの後って、今から70年以上も前じゃないか」
 兵部は、その頃から薫を知っていたと結論付けるほうがよさそうだと判断した直後に、管理官と賢木が記憶操作された。


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