未来のために・続

□41話 心の声
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 屋敷に着くと、皆本主任がメガネの縁に指を這わせていた。なにかの合図だろうか。
「行け!! 突入!! 佐倉もだ!!」
「え、あ、はい!」
 ユーリが薫ちゃんの首に手をかけ、力の限り絞めようとする。
「ザ・チルドレン、完全解禁!! トリプル…。いや、クアドラプル・ブースト!!」
「主任…」
『久しぶりに解禁します』
 超小型AIのチェリーが、私の気持ちを汲んだように告げる。最後にブーストをしたのがいつなのか、もう思い出せない。そんな物思いをよそに薫ちゃんが叫ぶ。
「っしゃあ! あたし達四人の力で――」
「クアドラプルじゃないわ」
 マテリアルのフェザーが、ブーストの核となる薫ちゃんの肩に手を添える。それを見て、未来のエスパーの救世主でその中心になるのは、間違いなく彼女なんだと思った。私は、彼女の補助係。リーダーになる素質はないが、あの人が夢中になる女子。でも今は、彼から言われた『未来への分岐点』。集中しなければ。
『インフィニティ・ブースト!!』
 気がつけば、まばゆいけど優しい光の中にいた。
「ここは、ブーストの光の中なのか?」
「…そのようですね」
「今までの『フォース・オブ・アブソリューション』とは違う。これは幻か? それとも、物理現実なのか…!?」
「皆本さん!? 千鳥ちゃん!?」
「皆本はん!! 千鳥。ここ、どこやのん?」
「君達にも分からないのか!? 薫は!?」
『薫ちゃんは、ユーリちゃんの所よ。あたしも行かなくちゃ。そろそろお別れね』
 新しい声が入りこみ、全員がそちらを向く。
「フェザー。何が起きているんだ!? その前に全部明かしてくれるんだろうな。フェザー。いや、薫」
『……。あたしは、たぶん、もうあなたの薫ちゃんとは違う。彼女は、ここにいるあたしにはならないわ。あなたも、あたしの皆本じゃない。あたしは、もう彼とは会えない…!』
 フェザーとはいえ、姿は薫ちゃんなわけで。黙って見ているはずのない二人は、すぐに食いつく。その瞬間に、大人の姿の二人が現れた。いや、もう一人いる。
『あっちでちょっと話そか』
「ちょっと!! なによ、あんた!?」
「誰や、この色気のない貧乳メガネ!?」
『自分が言われて嫌なことを自分に言うな!!』
『あれは、薫ちゃんなんだから』
「そうだけど、『違う』って本人も言ってるじゃん!!」
『お父はんの持ってる株の値動きについて、教えておきたいことが…』
「え?」
『私達も行こうか』
「う、うん…」
 ほんの少し大人びた雰囲気の自分を目の前にして、葵ちゃんと紫穂ちゃんと同じように、別の空間で話しあう。


『さて。ここならいいでしょう』
 さっきと同じような真っ白な空間で、自分同士の会話が始まる。
『今、京介を信じられていないよね』
「そうね」
『…かなり素直に答えたなぁ』
「自分同士だもの。気兼ねなく本音言えるし」
『本音? そうかしら』
「どこぞの小説みたいに、本心に気づかせるつもり? そんなのお断りよ」
『過去の私がそう願っても、同じ自分だから未来の私には分かるの。私は京介を愛してるよ』
「っ!」
『あらら。顔真っ赤にしちゃって。そんなに恥ずかしかったかな? このセリフ』
 おどけた表情で私を見る、時空を超えて未来から来た私。彼女には開き直ったような雰囲気があって、なんとなくむしゃくしゃする気持ちを言葉にした。
「聞いてるこっちが恥ずかしいよ!」
『本当は分かってるくせに。自分の言葉には素直になるものよ』
「だって…、怖いんだもの」
『お母さんと同じように、背中を向けられたから?』
 その問いに、視線をそらしてうなずく。直後に、盛大なため息をつかれた。
『彼を嫌いになった理由は、それだけ? ま、京介自身クイーンに夢中になりすぎたってのもあるけど。私も、その逃げ道に賢木先生を選んで間違ってたけどさ』
「間違い? 私はそう思わない」
『自分を正当化するのは、もうやめなさい!』
「正当化してない!」
『じゃあ、なんで先生にキスされた時、心がうずいたの!? 後悔してるんでしょ? …自分のこと、もっと大事にしなよ。だから、未来の私がこの気持ちに気づいた時、彼はもう…息を引き取ってたの。なにもかも手遅れだったのよ! 私は、ただ冷たくなった京介の手を握ることしかできなかった…。早く伝えておけばよかったって、未来の私が後悔してるのよ?』
「……」
 手遅れ。京ちゃんが死んだ。そのふたつの言葉に背筋が凍り、なにも考えられなくなって息が自然に詰まった。今はただ『うそでしょ?』という単語が脳内を占めている。
『後生だから、私の言葉を聞いて…』
「……。わかった」
 ぼろぼろと大粒の涙を流す未来の自分の言葉を聞き入れ、結局自分がどうしたいのかも分からぬまま、未来を変えるために薫ちゃんの手助けに向かった。


→兵部side
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