夢の中で (短編)
□積極すぎる敵
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「オレの女になれ」
(この言葉は、オレの聞き間違いだろうか?)
そう思ったオレは、聞き返した。
「いきなりそのセリフって…お前どんな神経してんだ」
こっちは猫の仮面で素顔を隠しているが、向こうはバレバレだ。
だから、自分のビンゴ・ブックに載っている者だと理解した。
だが…この世に生まれてきてから十数年間で、こんな積極すぎるアプローチは初めて経験する。
ゆえに、どう対処すればいいのか全くと言っていいほど分からない。
「……」
近寄ろうとした敵・桃地再不斬に殺気を放出し、背中の刀に手を伸ばし、構える。
(いつも通りに任務を終わらせばいいだけのこと。感情なんて要らない)
そう思っていたはずなのに、オレは敵の瞳の奥にある深い孤独を読み取って、感情移入してしまった。
この暗部総隊長とあろう者が、敵に同情してしまうとは。
(オレってば、実は隊長とかに、いや、その前に忍なんかに向いてねぇんじゃねーの?)
「お前は優しいんだ。だからオレを殺せない。本来は、戦うような一族じゃないだろ。違うか?」
「後者のほうは合ってるけど…な!」
互いに刃と刃をぶつけ、その金属音が暗闇に響き、水面に波紋が広がる。相手の力に負けじと踏ん張るが、しばらくすると悲しいかな、体格の違いからくる力の差がはっきり出てきて押され気味になってきた。
「どうした…さっきのクールな表情が曇ってきてるぞ」
「う…っく…」
目の前にある余裕の顔を見て、ムカついた。
(なんでこんな時にカカシの顔なんか思いだすんだろう?すっげーボコボコにしたい)
そこで名案(?)が浮かんだ。
本当は、やりたくない&子供じみた行動だけど…うさ晴らしにやってみる価値はあると思う。
敵の背後にしゃがんだ状態の影分身を作って、本体である自分は力の均衡を崩すために念動力で自分の体を水面に浮いているように見せかけているのをやめて、冷たい水の中に身を沈めた。