夢の中で (短編)

□条件
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「はほはー」(訳:あのさー)
「んー?」
 セミが大合唱しているのを耳にしながら、甘味処ののれんの影でアイスバー(バニラ)の先端を口にしながら、目の前に座ってイチャパラを読んでいるカカシに聞いた。
「はふふひへへ、はふふはひほは?」(マスクしてて、暑くないのか?)
「なに言ってんのか分かんな〜いヨ、桜花。しゃべるかアイス食べるか、どっちかにしなさい」
「…っんぐ。マスクしてて暑くないのか?って聞いたんだ」
「ああ。それは…」
 答えつつも、さっきからずっとイチャパラから目を離さないこととうだるような暑さにイライラして、声を荒げてしまった。
「人と話すときは、面と向かって言え!」
「ムリ」
 即答されたことに、再びイライラが募る。
「なんで?」
「いや〜…だって…ネェ?」
 正面を向いてくれたものの彼が視線の先と頬を染めているのが分かって、頭の中でしきりに疑問符を浮かべていると冷たい感触がした。
「ひぁっ!?」
 ぽたりぽたり、と溶けたバニラアイスが、鎖骨を通して下に流れていく。
「カカシ!溶けてるなら早く言えよ!うわっ、ベタベタするっ!」
「オレが舐めとってもいーけど?」
「やめろ。気持ちわりー」
 テーブルの上に置いてあった紙ナプキンで拭き上げたために、谷間辺りでベタベタ感がなくなった。
「マスクしてる理由は教えないけど、素顔を見せる条件なら教える〜ヨ?」
「ん。ほひへほ」(教えろ)
 くしゃくしゃにした紙ナプキンをカーゴパンツのポケットに入れて、半分になったアイスを再び口の中に入れた。
 声には出さなかったが、口の動きで何を言ったか分かった。
「…お前、しつこいな」
 もう、怒るのを通り越してあきれるしかなかった。


《オレと結婚するなら、素顔を見せるヨ》
 

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