未来のために

□6話 蕾見不二子とパンドラ
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「ねぇ。その格好で寒くないの?」
「あら、心配してくれてありがと。優しい子ね」
 ここまでの会話は、とても微笑ましいものだと思う。次の言葉が、マッスルの心を傷つけた。
「二度とお近づきになりたくないけどね」
「どーゆー意味よ!」
「だって、変だし、気持ち悪いもん」
「どこが変なのよ!」
「男なのに女の言葉遣い、仕草、全部」
「きーっ!!」
「私に近づかないでねー」
 気がつくと、僕の腕に千鳥の腕が絡められていた。
「どうしたんだい?」
「久しぶりに会えたから嬉しくて♪」
「…そうだね」
 こっちにとっては60年ぶりでも、この子にとっては『久しぶり』なのだ、と気づかされた。
 ――千鳥と僕の時間の差は、あまりにも違う。
 物思いは、不二子さんの声によって中断された。
「逃げるのがちょっと遅かったわよ。兵部京す…千鳥ちゃん!?」
「久しぶりだね、ふーちゃん」
「…えぇ…久しぶりね」
 気まずく思ったのか、場をごまかそうと不二子さんは何事もなかったかのように笑顔を浮かべたが、千鳥はすぐに異変を察知して笑顔をひっこめた。
「『逃げる』って何? ふーちゃん、京ちゃんを捕まえようとしてるの?」
 不二子さんも笑顔をひっこめて、真剣な顔で答えた。
「ええ」
「京ちゃんが、誰かを殺したから?」
「そうよ」
「誰を?」
 短くため息をついて、彼女は昔話をし始めた。
「今から20年前、彼はバベルの職員を殺したの。ノーマル…何の力も持たない人を。だから千鳥ちゃん。その男について行っちゃダメよ。あなたは――」
「超常能力者だよ。…京ちゃんにも、ずっと隠してたけど」
「!!」
 不二子さんが声にならない悲鳴をあげた直後、マッスルが僕の前に出た。
「少佐に手は出させないわよ、女狐!」
「よせ! 鋼!」
「ビィイィーッグ!! マグナァアアーム!!」
「うわ…下品」
『ソウダナ』
 不二子さんがマッスルの股間に蹴りを入れて、彼は当然のことだが撃沈した。
「…もう一度言うわ。その男について行ったらダメよ」
「やだ!」
「いい加減、京介から離れなさい!」
「いやって言ってるでしょ! メガネ野郎が言ってたけど、私にバベルもパンドラも関係ないなら、なんでそっちに行く必要があるわけ? 全然意味わかんないし! 関係ないなら、私の好きにさせてもらうよ! 行こう、京ちゃん」
「待ちなさい!」
 この場を去ろうとした僕達に、不二子さんの叱咤が飛ぶ。
「千鳥ちゃんの手前ではしないように決めてたけど、気が変わったわ。兵部京介、あなたを拘束します。抵抗するなら殺すわ。おとなしく捕まる気はある?」
 答えは、いつも決まってる。
「ないね。もうごめんだ。10年前と違って、外でやりたいことが多いから。それと、あのブラスターを坊やに持たせたのもキミだろ? タチが悪いにもほどがある」
「未来を変えるためよ!」
 ――ああ、またこの議論か。イライラする。
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