未来のために
□7話 夢と現実
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(何よ、その力! 気持ち悪い!!)
ある日、日本人のお母さんに考えてることを言ったら怒られ、錠付きの押し入れに閉じ込められて、外から鍵をかけられた。
その時は、テレパスの能力が開花したとは気づきもしなかった。
そして、1ヵ月の間に自在に能力の調整ができるようになった。
お腹がすいたと言っても、出してくれない。ただ、お客さんが来ることが前もって分かっている時だけ押し入れから出されて、温かいご飯がもらえた。
暗転。
車が遠ざかっていく音が聞こえた。
(まって! おいてかないで! おかーさん!)
それは、今でも思い出したくないことだった。3才になった翌日、目の前でお母さんに捨てられたから。
自分が泣いていることに気づいて、目を覚ました。
「お母さん…んぅ…?」
涙をバスローブの裾でぬぐって窓の外を見ると、まだ暗かった。
うつぶせの姿勢から仰向けに姿勢を変えると、『ぎしっ』と下から音がして体が少し弾んだ。
「眠れないのかい?」
すぐ隣からささやき声がして、小さな悲鳴をあげてしまった。同じバスローブを着て、背中を向けたままの京ちゃんが、クスクスと笑って目の前にある肩が揺れる。
「…うん…悪い夢を見てたから」
「そっか」
ごろん、と彼が寝返りをうって、向かい合う形になった。
彼の髪の色が黒から白に変わったことに最初は驚いたが、群青色の瞳を見て安心している自分がいた。そして、それだけの時間を自分はカプセルの中で眠って過ごしていたことに気づかされた。
目覚めてから次々といろんな事が起こって、本当は混乱していた。でも、一眠りしたら混乱していた頭がすっきりして、やっと落ち着けるようになった。
「…京ちゃん。私、何十年眠ってたの?」
そして、目覚めてからずっと疑問に思っていたことがやっと口から出た。
「60年…いや、65年だ。1945年に戦争が終わって、今は2010年だよ」
そう言われて、頭の中でざっと計算してみた。
「…え!? じゃ、80歳なの!? 京ちゃん、髪白いのに若っ!!」
すると、今度は困ったような笑顔を浮かべられた。
「…千鳥。僕はね、超能力で無理やり若い肉体を保ってるんだ」
「…え? …じゃあ…」
嫌な答えが返ってきた。
「僕の余命は、もう残り少ないんだよ」
「っ!! そんな…!!」
――また会えたのに、京ちゃんが死んでしまう。
「い、やだ…そんなの、やだよ!」
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