未来のために

□8話 検査結果
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 僕が目を覚ますと、千鳥はすでに起きていて、ルームサービスの朝食を食べていた。
「あ、おはよう。京ちゃん。このパンおいひーね」
「そうか、よかった」
 いつものように起きてからすぐに体調を調べるが、どこも異常はなく、爽快感があった。
 ――これも千鳥のおかげか。彼女が自分のそばに居てくれれば、あの特殊な薬を飲まずに済む。
 軽く伸びをして彼女の向かい側の椅子に座ると、小皿にクロワッサンを取り分けてくれた。
「ありがとう、千鳥。今日、なにか予定はあるかい?」
「んーと、賢木先生に検査の結果を聞かなきゃいけないから、バベルに行かないといけない」
 すぐに『ヤブ医者』と言おうとした口をつぐんで、否定も肯定もせずに別の言葉を出した。
「…そうか。じゃあ、それが終わったら服を買いに行こう。久しぶりにオシャレしたいだろ?」
 それを聞いて、千鳥は顔をほころばせて笑った。
「うん! …あ…でも」
 言いたいことは分かっている。この子は、気を遣って金銭の心配をしているのだ。
「何も心配しなくていい。千鳥が欲しい物は、なんでも買ってやるよ」
「ほんと!? ありがと!!」
 キラキラと目を輝かせて、コーンサラダのキャベツをフォークで刺して食べた。
「あ、ほーだ。京ちゃん」
「フォークをくわえたまましゃべるな」
「んむ…ゆうべさ、『戦争は終わった』って言ったよね。平和になったの?」
 楽しい朝食の時間が、話題一つで急に重苦しいものになった。
「なったよ。だから今まで日本国内で戦争はないし、食べ物の心配もしなくていい。悪いことをしない限り、自由に生きていけるのさ」
「そっかー」
 それから、それぞれの服に着替え、千鳥をバベルに送るために出かけた。


「ここで待ってな」
「うん」
 バベルの受付嬢から死角になる場所にテレポートして、ヤブ医者を探すために関係者に姿を見られないように、ヒュプノをかけて施設内を歩き回った。
 そして、皆本と一緒に廊下を歩いている所を見つけて、ヒュプノを解いた。
「やぁ、元気か?」
「兵部! テメェ!」
「なぜここにいる!?」
 いつも通りの対応に、笑いがこみあげてくる。
「ごあいさつだな。千鳥をここまで送りに来たんだよ」
 二人がしぶしぶ黙った直後、桐壺くんの野太い声が耳に入ってきた。
「兵部京介! 今度こそお前を逮捕する!」
「そのセリフは聞き飽きたよ…。おい、ヤブ医者」
「ヤブ医者ゆーな!」
 彼を壁に押しつけたまま、ヤブ医者に話しかけた。
「千鳥の前に行く時は、絶対に白衣を脱げ。分かったな?」
「あ、ああ…」
「あの子はロビーに居る。お前が迎えに行ってやれ。ああ、それと」
 出かける前に書いたプロテクトをかけたメモ用紙を、ゴリラ局長の胸ポケットに入れた。
「検査が終わったら、これを千鳥に渡しておけ。あばよ」
 笑い声をあげながら、彼らの前から姿を消した。


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