未来のために (短編)

□メモ用紙
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「ねー、まだー?」
「あと少し待ってくれ」
 患者服の千鳥が、やっと届くドアノブにかろうじて手をかけた状態で待っている。
 パソコンの側のメモ帳を1枚破って、ペンで書きなぐってからプロテクトをかけた。
「さ、行こうか」
「うん」
 心なしか千鳥がスキップしているような気がする。
「ごきげんだね、千鳥」
 手を繋いだまま、ぴょんぴょん跳ねる彼女は笑いながら言った。
「だって、外の様子が変わってるんだもん!!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
 今度は、頬を膨らませてすねたように怒る。ころころと表情を変える彼女は、見ていて飽きない。


 千鳥をロビーの一角に隠してから、桐壺を壁に押しつけ、ヤブ医者に言う。
「千鳥の前に行く時は、絶対に白衣を脱げ。分かったな?」
「あ、ああ…」
 言葉を濁しながらも肯定の意を示した彼に、医者として信頼し千鳥の場所を教えた。
「あの子はロビーに居る。お前が迎えに行ってやれ。ああ、それと――」
 出かける前に書いたプロテクトをかけたメモ用紙を、ゴリラ局長の胸ポケットに入れた。
「検査が終わったら、これを千鳥に渡しておけ。あばよ」
 笑い声をあげながら、彼らの前から姿を消した。


 部屋に帰ってから、桃太郎が飛んできてマウスパッドの上に乗ってきた。
『イイノカ? やぶ医者ニ千鳥ヲ任セテ』
「いいさ。…あ」
 ふと、いつものやることを思い出した。
『ドウシタ? 京介』
「皆本をいぢめてくるの忘れた」
 まぁ、いいか。と考え直して、千鳥がいない時にやろうと決めた。


《口に出せない言葉は、『ずっと僕の側にいてくれ』》
 

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