未来のために (短編)
□ドキドキ>後悔
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「………」
1時間目の授業は、担任の先生がしている。
ショートヘアーの先生が、『教科書を開きなさい』と言う。もちろん聞いていない。
別に聞かなくても、バベルの教育プログラムでとっくに終わってるものだし。
そんなことより、さっきから気になっているのは彼の額に刻まれた弾痕だ。
65年前の8月7日。
京ちゃんは早乙女さんに裏切られ、額に弾丸を叩き込まれた。
(あの時、私の体が思念体ではなく実体だったら、彼の額に傷を作ることなく私が死ねたのに)
今でも彼の額を見るたびに、そう思う。その時、ふと別のことを思った。
(京ちゃんは、私があの場所にいたことをどう思っていたんだろう?)
テレパシーを送って話しかけるよりも早く、先生に指名され、式の答えを言うはめになった。
次の時間は、国語。
「あれー? 教科書ちゃんと入れたのになー。ねー、京ちゃん見せて? …今、『教科書スってよかった』って思ったでしょ!?」
「チッ、バレたか。だって、千鳥と机ひっつけたいんだもん♪」
「かわいく言ってもダメ! 教科書返して!」
「ちぇー」
口をとがらせてブーたれる様子は、昔と変わらない。そのことに、内心ほくそ笑んでいた。
だから、国語の授業が始まる直前に思考を送った。
(ずっと、そのままの京ちゃんでいてね)
兄のような存在の彼は、ほんの少し目を見開いて驚いていたが、彼も送り返してきた。
(千鳥もね)
さぁ、体育の時間だ。グラウンドに出て、ドッジボールが開始された。
「くらえ、皆本ー!!」
東野くんが叫んで、ボールを投げた。
「うわっ!?」
チビ皆本主任がそれを避けて回避。眼前にボールが迫る。避ける時間はない。
ばんっ!!
顔面にぶつかったと同時に、短い悲鳴が出た。星がまたたく。ボールが地面に落ちて、ころころと転がっていく。
「大丈夫かい? 千鳥」
「う、うん」
よしよしと頭をなでてくれる京ちゃんと一緒に、保健室へ行った。
「う〜…」
涙目で小さなアイスノンを顔に当てていると、頭を強引に肩に引き寄せられた。
頭がクラクラして、そのまま安心感と共に浅い眠りについた。