未来のために (短編)
□なんで?
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僕らがロビエトの国籍を取った後、千鳥が怒り出した。そして、カタストロフィーに戻った今も、ぷりぷりしている。
「なあ、千鳥。どうして怒ってるんだい?」
「………」
何も答えずに『じとっ』とした瞳で僕を睨んで、さっさと自室にこもってしまった。
「紅葉。僕、なにか千鳥に悪いことしたかな?」
「夏休みの行動を全部思い返してみれば、わかるんじゃないですか?」
かなりアバウトなアドバイスに、首を傾げるしかなかった。
「桃太郎。お前、わかるか?」
『サーナ』
げっ歯類は意味深な笑みを浮かべて、さっさとヒマワリの種が置いてある皿の上に飛んでいって、それをがっついた。
「千鳥、開けてくれない?」
「うっさい、バカ!!」
夏休みに、彼女はカタストロフィーに住みこみで過ごすようになった。そして、明日は始業式だ。
「なんで怒ってんだよ?」
「………」
いきなり黙った。ますます意味がわからない。ついでに言えば、彼女が本気で怒ったのは今回が初めてだ。
「そっちが開けないなら…」
強行突破だ。
テレポートで部屋の中に入る。
「ねぇ、千鳥…あれ?」
千鳥の姿が、どこにも見えない。
ほかの場所を探してみる。
ベッドの下。
クローゼットの中。
風呂場。
机の下。
船中を駆けずりまわって、捜す。
結論から言うと、どこにもいなかった。
「…どうしたんですか? 少佐」
「…ああ。真木」
どよんと疲れ切った顔と瞳で彼を見ると、あわてて僕をそばにあったカウチに座らせた。
「どこか具合でも悪いんですか!? 今すぐプリンセスを――」
「その千鳥が、どこにもいないんだよ!!」
悲壮感を丸出しにして、叫んだ。たちまち、室内が気まずい雰囲気になる。
「…すまない。叫んだりして」
「…いえ」
暖かい昼の日差しが、部屋の中にさしこんでくる。日本時間で言えば、午後8時くらいだろう。
「…千鳥とは…幼い頃から、ずっと一緒だったんだ」
「………」
落ち着かない気分をどうにかしようと、独り言のように昔話を始めた。
「ずっと…一緒に育ってきた。僕が能力に目覚めても、彼女は恐れることなく後ろをついてきた。…今は普通の体型だけど、昔は違った。マッチ棒みたいに細くて、小柄で…僕が守ってやらないと、いつもケガをしてたから…」
話してるうちに、胸が苦しくなってきた。
そうだ。
いつも、僕らは一緒に、隣にいたんだ。
互いに、いつでも支えられるようにと。
生き別れになる、あの時まで。
→千鳥side