未来のために・続

□39話 クアドラプル・ブースト
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『あなたがたが誰かはわからないけど、あたくしが信頼した相手であることを祈ります。もしそうなら、ここへ来ることはそう難しくなかったでしょう。そして、今これを見ているということは、あたくしはもうこの世にはいない。かもしれないし、元気かも。まー、どっちでもいいんだけど。数々の試練をくぐってよくここまで…』
「今が試練だよ! キレそうだよ!」
『さて、あなたの隣を見て。誰がいる?』
 薫ちゃんは皆本主任を見て、ちび京介はなぜか私を見た。
『その娘が、その娘こそが探し求めていた財宝なのです!』
『ドヤ顔でなに言ってんだーっ!!』
 主任は椅子を投げ、私はスクリーンをサイコキネシスで切り裂いた。
「スクリーンの後ろに金庫が! ツッコミ誘ってたんか!」
「ツッコミを!?」
「ふーちゃん、やるなぁ…」
 ここでまた紫穂ちゃんの出番。私の力って、必要ないんじゃない? と落ちこんでいる間に、紫穂ちゃんが書類に触れた。
「きゃ…! 思念波が、強引に流れ込んでくる…!! 透視するより速い!!」
「トラップだ! おそらくレベル7の力を逆手にとって利用してる! リミッター・オン!」
「アカン! うちが引きちぎったる!」
『待ってくれ。その必要はない。危険はないよ』
 宇津美兄さんの分身が現れ、私達にこう告げた。
『僕は、宇津美清司郎の能力で仕込まれた模擬人格だ。情報の番人としてね。彼女には今、僕が蕾見くんから預かった情報と、僕自身を複製して送りこんでいる。……終わったよ』
「紫穂、大丈夫!?」
「うん。でも、ちょっと疲れた」
『情報は全て託した。機密保持のため、本体は処分して、僕は消える』
「おい待て! 情報ってなんだ!? 紫穂に何をダウンロードした!?」
『さあ…。僕は預かっただけだから。知っているのは、文書の名前だけ。『蕾見文書』。彼女の遺言だよ。戦時中型戦後の封印された闇も含む、彼女の関わる事件の経緯だ。だから、厳重に封印して、こういう手続きを仕込んだ。内容については、僕は知らない。ここにいる僕は、内容が記される前に造られた分身でね。いずれ必要になると考えた蕾見君に協力したんだ。すべては、その子の中に書き写した。あとは、自分たちで読み取ってくれたまえ。その方法は、蕾見くんが知っている』
「そんな方法聞いてない! 僕らは、ここへ誘導されただけで…」
『残念だが、僕には答えられない。反応は限られているんでね。だが、幸運を祈る。君らの住む未来が…、僕のいた世界よりいいものだと願うよ』
 文書が燃えつき、床に消し炭になった紙だけが残った。
「情報を送りこまれた感触はあるけど、それが何かはわからないわ」
「よせ! あまり協力に自分をサイコメトリーすると、ハウリングを起こしてオーバーフローするぞ!」
「とにかく紫穂ちゃんを休ませよう」
「一番近い出口はわかる、葵?」
「んー。こっちの壁がちょっと薄い…かな。テレポートで外に…。な、なに?」
「こっちも…」
「なんか感じる。…この場所、なんだろ?」
「位置情報か!」
「おでこに何かついてる。僕の体と同じマテリアルじゃない? レアメタルの粒子」
「レアメタルを仕込んだナノマシンが、皮膚に浸透してるわ。私の脳波に反応して、情報を中継してるみたい」
「それが『蕾見文書』の鍵か」
「とにかく行ってみよう。葵ちゃん、遠いの?」
「ううん。数回のテレポートで行けるはずや!」
 そこは見たことのない廃墟だった。でも、ちび京介の脳裏に浮かんだ景色が伝わってきた。
「伊号…。伊・八号がいた部屋…」
 イルカである彼の脳を取り出した場所。頭が一瞬だけ熱くなって、甲高い音が響いた。超能力が共鳴している証拠だ。
「クアドラプル・ブーストか! それが最後の鍵だ! ザ・チルドレン完全解禁!!」
『佐倉千鳥。解禁します』
 解禁して現れたのは、幻の管理官だった。再びドヤ顔でふざけたことを言ったため、主任がキレて靴で幻の彼女を殴った。
『幻を靴で殴った! 靴で!』
「こっちゃ真剣にやってるんですよ!?」
『いっぺんには無理だもの。なんせ半世紀分の積もる話なんだから。でも、できるだけ正確に伝えておきたくて。あたくしが見てきたこと』
 私のテレパスの力を拡張して、部屋全体に光景を映した。
『時系列順にいくわ。まずは、千鳥ちゃんが連れ去られた時のこと。あの日、あたくしはお留守番をしてたわ』
 真っ白だった光から徐々に、景色が投影されていく。耳をすませば、遠くから車が止まった音が聞こえてきた。


 この日から悪夢の始まりになるとは、超能部隊の誰も予期していなかった。



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