未来のために・続

□41話 心の声
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 屋敷の方角から夜空へ向けて、すさまじい光の渦が発生した。
「これは、クイーン達の解放された無限の力。神々しくてまいるな。僕のクイーンがああなるのは、まだ先のことだが…。あの未来がなければ、今これは起きていない。ひょっとしたら、この現在は全て…」
 そこまで言って、彼らの言葉を思い出す。

(どうして、一言も言わずに姿を消したの!? 私たちの力じゃ、ブラック・ファントムに勝てないから!? なんで1人で全部しょいこもうとするの!? 自分はもう死んでいい存在だって思ってないよね!! 未練があるかどうか知らないけどね、残された仲間の気持ちくらい、少しは考えなさい!!)

(あなたが躊躇したから、代わりに殺したんでしょ。『反撃されて戦死するリスクも、仕事の一部と承知しておくべきだ』と言ったのは、誰だっけ?)

(…ちゃんと千鳥のことを見てやれ。そりゃ、クイーンである薫ちゃんのことも大事だろうけどよ。お前ら幼なじみなんだろ? いくら相手の性格は分かっていても、感情をため込むんじゃねえ。すれ違いが起きるだけだぞ)

(今回ばかりは、俺も言わせてもらうぜ。ジジイ。幼なじみの一線超えて、両想いになった途端に行方不明になりやがって。バベルとパンドラの双方に居場所がなくなったプリンセスは、ずっとホスピスに籠ってたんだ。唯一の話し相手と言えば、桃太郎だけ。毎日毎日カタストロフィー号のゲートをくぐって、見舞いに行ったけど…。ここまで言えば、さすがに分かんだろーがよ!?)

 千鳥の心が壊れたのは僕のせいだ。だが、思い悩むのは明日にしよう。今は、あの坊ちゃんの相手をすることが先決だ。飛行機の後部ハッチを破壊して、その縁に捕まっているとパイロット二人が『ブラック・ファントムのエスパーだ』と震えた声で言った。
「まあ、たしかに僕は亡霊だし、こんな服だが、類似品には注意してくれたまえ。僕は『漆黒の堕天使』ってとこかな。そこにいるファントムを迎えに来たのさ」
 クイーン達のブーストの影響で、坊ちゃんの人工ブーストネットワークを最大にし、性懲りもなく子供を犠牲に攻撃をしかけた。
「ははは!! 今度は本当に爆発させる! お前が復活した祝いだ!!」
 残り二人を連れて機外へ避難し、子供ごと僕を消そうとする。まだ幼さが残る少女は命令を遂行しようと、必死に抵抗しもがく。暴れるなと言ってもムダだ。額に埋めこまれたプラスチック爆薬の電子音の速度が上がり――爆発。


 気を失った少女を無言で抱えて、僕は己の力や思念に干渉してくる自分の分身に話しかけた。
「僕の力では無理だった。爆発までに除去できたはずがない。やったのは、僕の中にいるお前か」
『僕は、あなただ。自分と重ねて、敵を憎む気持ちを手放して、ただあの子を守ることだけに集中したら、反応速度がわずかに速くなっただけだ。僕とあなたの違いは、それだけだよ。少佐』
 気に入らない。僕の力に干渉することが。たとえ、彼のおかげで、こうやって生き延びたとしてもだ。…今は、屋敷へ向かおう。
「来たな。兵部。行け!!」
『了解!!』
「動くな。次は、二人一度に破壊する。カウントダウンもなしだ」
「あまり調子に乗るな。エスパーの子供が殺されるのは許せないが、引き換えにブラック・ファントムの御曹司を始末できるなら、目をつぶってもいいんだ」
「無理だな。僕は初め、君は同志になってくれると思ってた。僕と同じく、この世界の全てを憎んでいるはずだってね。だが、君は口で言うほど、この世界を憎んでいない。守りたいものが多すぎる、ただの甘ちゃんだ」
 再び、もう一人の僕が現れる。
『彼の言う通りだね。あなたが生きているのは、憎悪や復讐のためじゃない。いつも、心の中に彼女達の姿があったからだ』
「僕は、生まれたその瞬間から、父親に捨てられた。虚弱体質で、しかも超能力を持つ子供など、父には過去の災いの再現にすぎなかった。だが、生かしてはおかれた。ビジネスのためにね」
「お前のデータを元に、エスパーを生産する計画を思いついた…ってとこか」
「妹の誕生に、父は大喜びだったね。母親に似た姿で、しかも最強の能力を持つ人間。そして、僕はこう思うんだ。超能力を持つ者も、持たざる者も、みんな死ねばいい」
 僕以上に困ったヤツだなと思ったのは、一生の秘密だ。
「ところで、ここは今、ブーストの影響で超能力が乱れるようだ。お前の力は、おそらく半減。僕もネットワークを維持するだけで精一杯だ。この中では、妹とチルドレン。そして、お前の幼なじみが戦ってる。これは、なかなか喜ばしい状況じゃないか? 誰が生き残って世界を変えるのか、はっきりさせよう。その資格がない者達を、きれいに浄化するんだ」
「なに!?」
「この一帯を焼き払って、最後に立っていた者が勝者だ」
 その直後、誰かによって皆本が坊ちゃんの頭上にテレポートさせた。
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