未来のために (短編)
□なんで?
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「あーもー! ムカつくーっ!!」
怒りをぶちまけるように、歩道の真ん中で叫ぶ。通り過ぎる歩行者の視線もおかまいなしに、隣にいる紅葉ちゃんにグチる。
「なんか、夏休みの間に性格変わったわね。なんというか、活発? おしとやかな部分がなくなったような…」
「だって!! 高校生活最後の夏休みだよ!? もっとこうさ…刺激的な思い出とか作りたかったのに!! なにあれ!?」
夏休みの間に行ったこと、その1。どっかの国とドンパチ。これは『危ないから』と自室にこもるように言われていたから、しかたがない。
その2。澪たちが『学校に行きたい』と言い始めた。まあ、嬉しいことの一つだ。
その3。これが問題だ。彼らがロビエト国籍を取ったこと。いや。これ自体が、問題ではない。国籍を取ることに関して、彼が言ったことだ。彼は、大統領に対して―何度思い出してもイライラする。
「私は日本国籍のままだけど、『僕の妹だ』って!! 年離れすぎでしょ!! 設定にムリがあるってば!!」
「いいんじゃない? プリンセスはロビエト国籍とったわけじゃないんだし」
「私が言ってるのは、そーゆー意味じゃない!!」
「わかってるわよ。小腹がすいたわね。スイーツでも食べにいかない? おごるわよ?」
紅葉ちゃんが、数件先のスイーツの看板を指さした。
この怒りを鎮めるには、いいかもしれない。よし。思いたったら即犯行! …じゃなくて、決断したら即行動!
「やったーv 紅葉ちゃん大好きーv」
嬉しさのあまり、彼女が『パンドラ流のオゴリよv』と言ったのが聞こえなかった。
「んー、んまっv」
大好きなチョコケーキを口に含んで、一気に幸せ気分になった。
向かい側に座っている紅葉ちゃんは、注文したチーズケーキをぶすぶすとフォークで刺している。
「よーするに、幼なじみじゃなくて同等に見てほしいわけね? でも、少佐はそれにこれっぽっちも気づいてないと」
「そーだよ!」
がん! とテーブルに拳を叩きつける。
「小さい時から何かとアニキ面してさ! なにが『僕がそばにいないと、千鳥はいつもケガして帰ってくるから』よ!! そりゃ、そのとーりだけど!!」
腹立ちまぎれにケーキを少し大きめにフォークで切り分けて、ばくっと食べてもぐもぐする。はむ…と、ようやくチーズケーキを口に入れた紅葉ちゃんが言った。
「でも、それっていいな」
「何がよ?」
「少さい時から、ずっと一緒に育ってきて、親を亡くしても愛情を失わなかったのは、彼がプリンセスを大事に思ってるからよ」
答えに、つまった。図星だったからだ。
「そ、そんなこと言われなくても…」
わかってる。と言おうとした時、ケータイが鳴った。着信音は、マルトの『うたかた花火』だ。それを聞いた彼女は、ニヤニヤしている。着うたにしていたため、歌詞が丸わかりだ。
甘い吐息 微熱をおびる私はキミに恋した
その声に Ah その瞳に…
「も、もしもし?」
あわてて出たために、相手を確認してなかった。