!...××記念

□結道
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切り出し方がわからない。

いつもどうやって話をしていたっけ。
どうやって頭を回転させていたっけ。









「ほらシカマル!しっかりキメてきなさいよーっ」


ばしん、といつになく母ちゃんが気合いを入れてくれた朝。

胃に入れるだけ入れたものが戻りそうになるのを抑えつつ、待ち合わせの場所へと向かった。




「シカマルー!おはよーっ」


徐々に待ち合わせ場所へ向かう足が軽くなっていく。


彼女の笑顔がバックの太陽に負けないくらい、きれいに輝いていた。

…なんて、くさいセリフ、心に秘めて墓場までもっていくことに決め、足早にそこへ向かう。


「ねえ、どこ行く?他里に出かけてみる?」


いつも通り、めんどくさがりな俺を気遣ってかさりげなく選択肢を与えてくる。


「いや、今日は里を散策したい」


そう、からからの喉で答えれば、わかったと笑顔で返ってくる。

彼女は嬉しそうに俺の腕をひいて、こっちこっちと誘う。
緊張していた体がほぐれていく。


「あ、そうそう」

「ん?」


急に思い出したように、にっぱと笑ってこちらを振り返る。


「今夜はうちに来るんだよね?両親いるけど大丈夫?」

「ん、・・・ああ、大丈夫だ」


そうだ。今朝もそれで支度をぐずったんだ。

なんたって今日一番の、いや一生で一番のイベントなんだ。


安心と不安と、色んな感情が渦巻く中で、俺は無事に本番までもつだろうか・・・。



「――でね、今度の休みなんだけど」

「ああ、――そうか」


いつもと同じ、変わらない日常。
他愛のない会話を楽しむ、そんないつも。


いつもと違う、迫り来る時間。


陽が傾きかけたその時、左ポケットに眠る僅かな冷たさを感じて、俺は彼女の腕に手を伸ばす。


「・・・!珍しいねシカマル」


くすくすと笑う。

我ながら大胆な行動に出たものだ。

自ら腕を伸ばし、彼女の細い腕を掴むなんて。


完璧なお前からしたら、俺は不器用の塊そのもなんだろうけど。


「そういう気分だ。・・・めんどくせーから、そろそろリノの家向かうか」


そう、適当に理由をつけて、早口に言った。
なにかを見透かしたように笑い続ける彼女に、がりがりと後頭部を掻いて、隠すようにまた強く握った。





「お久しぶりッス、遅くにすいません」


玄関を開けるなり、あたたかい空気で包むように出迎えてくれたご両親。

客間に通され、俺は必要な人間が全員揃うのを、固唾をのんで待った。


「シカマル、顔こわすぎ」

「ん、・・・悪ィ」


この間も、俺から話すことはほとんどなく、
リノの話も右から左へ流れる。
血の気が引いているような気がして、時折額に手を当ててみるも、平熱で、高鳴る心臓を抑えるのに必死だった。


お待たせ、と静かに現れたご両親を前に、どくんと心臓が跳ねた。
正座する腿の上に、固く握り締めた拳をほどくように彼女の手が添えられた。


――お互いの緊張が、手を通して伝わってくる。



今日まであたためていた己の覚悟を、一気にぶつけた。

俺の耳に光るものと、同じ光をお前にと、そう思って箱を開けた。

溢れ出たのはご両親の歓喜の声と、リノの瞳から落ちる雫。

震える手で、声で、彼女は首を何度も縦に振って、俺に答えを示した。



「・・・なに」

「何でもねェ」

「おっかし・・・、おやすみ」

「ああ、・・・おやすみ」





結道
(握り締めた手は、今も変わらず)
(そのまま離れなくなったり、なんて)



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