!...××記念

□キミを無くした
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「お前は数ある中の一部にしか過ぎない」

「でしゃばるな。人形の分際で」


違う。
こんなことを言いたいんじゃない。
本当は誰よりも、彼女を愛していると言うのに。


「旦那ぁ、あの子を虐めるのも大概にしなよ、うん」

「…俺の勝手だろ」


嘘で塗り固められた俺の心は、嘘しか出てこない口とも重なって、嫌になった。

そんな口を開いたら、俺は決まって彼女を悲しませた。






彼女を造ろうと思ったきっかけは、単純だった。
高性能かつ、自分の話相手が欲しかった。

ただ、それだけだった。


「旦那も素直になんないと、うん」

「どういう意味だ」

「…バレバレだっつーの、うん!」


最後に、旦那の急所とおんなじだな!と言って一目散に逃げていった。

怒る気にもなれなくて、俺はデイダラの言う通りに行動に出た。




自室に戻れば、すぐにおかえりなさい、と挨拶が飛んでくる。
それに返すことなく、一番落ち着く場所に腰を下ろした。

彼女は邪魔にならないようにと、遠慮しているのか部屋の隅の方に小さく座っていた。
ちらりと視線をこちらに向け、またすぐ目を逸らして頭を下にする。

いつものことだが、少し気にしてそれを見れば、可笑しな光景に思えた。
くっと笑えば、ばっと顔を上げて物珍しそうに目を真ん丸にしている。
それすらも可笑しくて、笑いを堪えながら、普段は嘘しか吐けない口から本音を覗かせた。


「お前、俺のことは好きか?」

『あ、…主ですから…勿論です』

「なら、愛してみろよ」


数秒、時が止まったように彼女は俺を見つめた。
俺も、彼女をじっと見つめた。

人形に感情など、籠るはずはないのに、彼女の目から涙が溢れるのを、はっきりと見た。

その泣き顔があまりに綺麗で、全てが洗練されるような、そんな気持ちに侵食される。


「…ぶっさいく」


俺は思わず笑ってそう言った。


“綺麗だけど、人間臭くて好きな顔。”


そう言えば、彼女は笑った。
そしたら今度は、俺の目から涙が溢れ落ちた。


この日を境に、俺は彼女を幸せにしてやろうと心に決めた。







だけどどうだ。

所詮、完璧な機械なんてない。
サビがきたら何時でもさよなら出来てしまう。

それが分かってしまうと、彼女に嫌われることより怖くなった。






「……できた…!」


彼女を造った時と、同じ設計図。
同じ材料。
同じ手順。


『……御主人様、御命令を』


所詮、完璧な機械なんてない。

二度も、同じものなんて造れない。

彼女はこの世で、たった一人の彼女だったのに。

それを愛してしまった俺がいけなかったのか。





キミを無くした
(俺の心を洗い流してくれた彼女は、もういない)



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