Darkness

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「んっ…頭痛い…」



目覚めと同時に襲いくる、頭痛に私は思わず声を漏らした。

カーテンの隙間から射し込む光に目をすぼめながら、額に手を持っていく。

ここ数日、どうにも寝起きが良くなかった。ベッドの上で起こした体は嫌な汗を滲ませ、軽くはない頭痛が私を襲う。


寝起きの倦怠感とは違う意味で気分は沈み、油を差し忘れたブリキ細工のように体が重い。

時計を見ると七時半を過ぎていた。


私の両親は共働き、父親は単身赴任で他県に住んでいる。母親は忙しい人で、当然朝も早い。


この時間だと、そろそろ――、




「みう!もう七時半よ!起きてるの?」

「……はぁい」

ドアの外から掛けられた声に、
気怠い返事を返す。
それから自分に対して気合いを入れ、
立ち上がる。



「さて、と」

呟いて部屋を出て、階段を下りて居間に入る。
母親はすでにスーツ姿で、テーブルには二人分の朝食が用意してあった。


「おはよう、お母さん」

「おはようみう。早く食べなさい。学校、遅れるわ」

「うん。……理玖は?」


椅子に座り、そう尋ねる。
母親は私の言葉に、一瞬だけ表情を曇らせ、


「知らないわ。声は掛けたけど」

「まだ起きてないの?」

「知らないわ」

「……」



素っ気なく言い返すその態度に、私は母親から見えないようにため息をこぼす。
理玖は弟の名前。ここ一年ほど、母親と上手くいってない。





いつの間にか二人は、互いの存在を無視するようになっていた。
もちろんそれには理由があるし、私はその理由を知っていたけど、 自分が仲介役になれないことも知っていた。






「お母さんね、今日はご飯外で食べてくるから」

そう声をかけられて、うつむいていた私は顔を上げる。
さっきまでの無関心の仮面は姿を消し、優しい親の顔で母親は僕に言う。



「晩ご飯、よろしくね」


「あ、うん」



「みうが忙しい時期なのはわかってるけど……」


「いいよ、もう慣れたから」


「ありがとう」


と言って、母親は微笑んだ。

こんな朝は、最近では珍しい。
仕事が立て込んでいたのか、最近の母親は帰りも遅かったし、
文字通り時間に追われるようにして
家を出る朝に、私に向かって微笑みかけるような余裕はなかった。

こんな会話を交わしたのは久しぶりだった。
たぶん、機嫌がいいのだろう。
仕事の調子がいいのかもしれない。


「それじゃあ、お母さん、もう行くから」


「うん」


「勉強、頑張ってね」


「いってらっしゃい」


母親を笑顔で送り出し、それから私は朝食を食べ始める。
学校までは歩いて二十分ほどかかるから、もうほとんど余裕はない。

10分ほどで食事を終え、身支度を整える。私が家を出る時間になっても、理玖は起きてこなかった。



「……今日も、嫌な夢だったな」

最近の私は夢見が悪かった。
悪夢としか言い様のない夢に、毎晩うなされる。

それは夜だけにとどまらず、例えば学校の休み時間もだった。


「……おい、みう。お前顔色悪いぜ?大丈夫か?」


「…大丈夫。心配してくれてありがと。……景吾」


「無理なときは俺様に言え。
保健室まで運んでやる…。」



「やだよ、恥ずかしいっての…。でも、心配かけちゃってごめんね?本当に大丈夫だから…。」


そう言って、仮眠のつもりで眠りについても、悪夢は襲ってきた。


今の私には、安眠なんてそれこそ夢のまた夢。
寝起きの頭痛も体調不良も、きっとそのせいだろうと思っていた。


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