Darkness
□05
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「お、おいっ…お前、何でナイフッをっ…!」
私がプレザーのポケットから折り畳み式のナイフを掴み手に持つと、景吾は声を上げた。
その必死な声に私は微笑む。心が解き放たれた気分…ああ、もうそれは最高の気分。
「偉そうに責任転嫁しないでよ」
真っ正面から視線を受け止め、私は言う。景吾は強気で私に叫びだした。
「てめぇ…手に持っているものを放せ!」
「もう名前すら呼んでくれないんだね。もしかして、新しい女でも出来たとか?」
「お前に関係ないだろうが。いいから放せ!」
「関係ない、か……まぁいいよ。これで望み通りになるんだから。」
そう言いながら、私は景吾を壁に追い詰めるかのごとく、景吾に近寄った。
「く、来るんじゃねぇっ!」
ドンッ―――…
グチャリ……
「っ――!!」
私に近寄って抵抗してきた景吾はバランスを崩し、私が持っていたナイフが景吾の鳩尾の近くに刺さった。
そして、ヒモの切れたマリオネットのようにその体は倒れ…
「俺様はてめぇを許さねぇっ…!!」
景吾が言ったその言葉を私が聞いたと共に、ゴンッと鈍い音が私の耳に届いた。
下を見ると、ちょうど景吾の頭の下に、堅そうなコンクリートブロックが落ちていた。倒れたはずみでコンクリートブロックに頭を打ち付けたようだ。
地面には、景吾のお腹からの血と頭から出た血で真っ赤だった。
「……景吾?」
問いかけるが、答えは返ってこなかった。 私はしゃがみ込み、彼の肩に手を伸ばす。
だが、その手は直ぐに止まる。
地面とコンクリートブロックに、先ほどよりも酷く景吾の赤い血が広がっていく。
「―――――。」
景吾の口元に手を当てると、呼吸が止まっていた。
つまり、死んだ。
「……あぁ」
そこで私は苦笑した。
「なんだ、夢か」
私が家について三十分ほどで、雨が降り出した。学校で鈴香から聞いたとおり、その雨の勢いは強く、しばらく止みそうにない。
「……なんなの、今日は」
私は部屋にいた。
制服から部屋着に着替えるのも忘れて、膝を抱えていた。
「あれは、なんだったのよ……」
呟きながら、ついさっきの夢を思い出す。
それはいつもと変わらないパターンだった。 私はつまらないことを理由に腹を立て、暴力をふるい……結果、相手が死ぬ。
相手の死に何も感じていていないのも同じだだ。私は平気で人を殺す。
――――そして、目が覚めて初めて後悔する。
「……頭、痛い」
さっきから頭痛がおさまらない。今までにない激しい頭痛が私を襲う。学校を出るときのことも、本当はよく覚えていない。
私は気付くと生徒玄関に立っていて、それから逃げるように美術室に戻り、コートとカバンを持って学校を出た。家についてからは、ずっと部屋にいた。
自分自身に対する恐怖からか、悪寒がいつまでたっても消えなかった。
「嫌いなわけ……ないのに」
私は必死に呟く。今にも否定され、失ってしまいそうな気持ちを言葉にのせる。
こんな夢を景吾が知ったら……きっと、その時こそ、別れが来る。現実の、別れが。