お題

□お題○鈍感な彼のセリフ○
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☆ 好きな奴って、誰?



「あんたなんて、大っきらい!」
「あーそうかよ!ありがてーこったな!」
「「ふんっ!」」

いつも通りの言い争い。
とはいえ帰る家は一緒なので、結局はそっぽ向きつつも並んで帰ることになる。

「あんたたち……飽きないわねぇ」
夕食時になってもお互いに背を向けたままの俺達に、呆れたように呟くなびき。

しょうがねぇじゃねーか。
第一、俺は悪くねぇ!

と喉元まで出かかる言葉を飲み込む。
さすがにこれ以上こじらせるつもりはない。
それにケンカのきっかけは確かに俺にある、と言えないこともない……気がするようなしないような?
ま、あれだな。
いつも通り、モテる俺様にあかねがかわいくねーヤキモチを焼いてるってわけだ。
だから俺は悪くねぇ!




「あかね、乱馬くんに言ったの?」
「学校帰りに言おうと思ったのよ。なのにあいつ……っ!」

軽く謝りゃあかねも納得するだろ、と夕食後にあかねの部屋まで来た俺。
ノックしようとして中から聞こえてくる声に気がついた。
なびき、か?

「はっきりすっぱり言えばいいじゃない。好きなコができたからさようなら、って」


………………は?
今、なんて言った………………?


「言おうと思ったわよっ。なのにあいつ、相変わらずシャンプーや右京に追いかけられて…あたしの話なんて聞きゃしないんだからっ」
「じゃ、放っとけば?別にいいじゃない。向こうが勝手に来て居座っちゃってただけなんだから。関係ないでしょ?」



気がつくと俺は屋根の上で寝転んでた。
あれ以上、聞いてられねえ。聞きたくもねえ。

勝手に来て居座った、ってやっぱ……俺のこと、だよな……。
あかねに好きな奴……考えてもみなかった。
俺はてっきり…………。
そうだよ、呪泉洞で俺の気持ちにはちゃんと気がついたはずだろ!?
あたしのこと好きなんでしょ?なんて言ってたじゃねえか!
あ、でも……。
そうか、そういや否定しちまったんだよな、俺……。

……っくそ!
なにやってんだよ、俺は!?
呪泉洞であかねを失う恐怖を嫌というほど思い知ったんじゃねえのかよ!?
またあいつを手放さなきゃいけないなんてっ!

考え、られねえ…………っ!!!



「乱馬?」



あかねの声に体を起こす。
体が熱くなってくるのがわかる。
ちゃんと、あかねと話さなきゃならねえ。

「あんたねぇ、人の部屋の真上で暴れないでよね!嫌がらせのつもり!?」

ふと見ると手元の瓦が割れてる。
考えながら割っちまったらしい。

「昼間のことならあたしは悪くないからねっ!大体あんたが……」
「あかね」
「なっ、なによ?」

やたらと低音の俺の声に、あかねが身構える。

「話がある」

一瞬ほけっとした顔をしたあかねだったが、黙って頷いた。
そんなあかねを促して、2人で道場に向かった。



「で、なによ!?」

相変わらず喧嘩腰のあかねに、なんと言って切り出そうか考える。

俺の側にいろ!とか?
やっぱりストレートに、好きだ!って言ってみるか?
いやいや無理だ、俺……。
あーどうすっかなー……。

ガシガシと頭をかく俺を見て、あかねがため息をついた。

「あんたが話さないなら私の話を先に聞いてよね」

やばいっ!
あかねに“さよなら”なんて言われたら……っ!

「誰なんだよっ!?」

怒鳴るように叫んだ。
あかねが目を丸くして俺を見る。

「……好きな奴って、誰?」

少し冷静になって繰り返す俺をキョトンと見るあかね。

「はあ?」
「だからっ!あかねの好きな奴って誰なんだよっ?」

途端にあかねの頬が赤く染まっていく。
かっ、かわいいっ!
……とか言ってる場合じゃねえ!

「なっ、なによっ!なんであたしが乱馬にそんなこと教えなきゃならないのよっ!?」
「教えなきゃ……?ってことはやっぱりいるんだなっ!言えよっ!」
「いやよっ!」
「言えよっ!」
「あんたが言ったらね!」
「……………っ!?!?」

形勢逆転。
今度は俺が赤くなる……。

「誰なのよっ?」
「……わっ、わかってんだろーがっ!」
「わかんないから聞いてんじゃないっ!」
「わかれ、この鈍感っ!」
「鈍感はあんたでしょっ!」
「んだよ、ケンカ売ってんのか!?このズンドー!」
「なによこのヘンタイっ!」
「「ふんっ!」」

バカ、俺っ!
ケンカしに来たわけじゃねえ!

立ち上がってドスドスと道場を出ようとするあかねの腕をつかんだ。

「なによっ、まだなにか言う気っ!?」
「ちげぇよっ!だから……っ」

あかねが不信気に俺を見上げる。

「きっ聞いちまったんだよ……さっき、あかねとなびきが話してるの……」
「え?」
「好きな奴、できたから……だから……」

続く言葉が、出ない。
“さよなら”なんて……。

俺の言葉に顔をしかめて考え込んでいたあかね。
やがて、パッと顔を上げた。

「あたしの好きな人、気になるんだ?」
「なっ、べっ別に俺はっ!」
「じゃあなんでこんなこと聞くのよ?」

にっこり笑顔で俺を見上げる。
なんだよ、なんでそんな余裕なんだよ!?

「おっ俺は許嫁としてっ、おめえに好きな奴ができたんなら……」
「できたなら?」
「………っ………」
「大人しく身を引く?」
「引かねぇよっ!」

あっ、しまった……。
と思ったときにはもう遅い。
してやったり、という表情を浮かべたあかねに、思わず手で口を覆った俺。

「ふーん?引かないんだ?へー」
「なっなんだよ?」
「べっつにー?」

ちっくしょう、やられたっ!
ついつい……ってオイ、なんか忘れてねえかっ!?

鼻歌が聞こえそうな足取りで道場を出るあかねを呼び止めた。

「オイッ!なびきとの話は一体なんだよ!?」
「あーアレ?Pちゃんがカツ錦のことを気に入ってあかりさんちに行っちゃったから……そろそろうちとはさよならかな、って」
「ぴ、ピー……?」
「カツ錦、強いもんね。やっぱり強い男に惹かれるのかしらね?あれ?でもPちゃんって男の子よね?」

もっかい確かめてみなきゃ!と呟きながら走り去る姿を見て、俺はガックリとひざをついた……。

Pちゃんって……そうか、P助の話かよ……。
勘違いで本音までこぼしちまった。
俺、カッコ悪……。

って!
P助がカツ錦と?んなわけねーだろうが。
あいつはあかりちゃんに会いに行ってるんだろ?
って、あかねにはわかんねえよな……。
ま、これで良牙もあかねを諦めるか!?



そんなことをグルグル考えている俺は、あかねが道場を出るときに赤い顔をして呟いてたことに気がつかなかったんだ。


「強い男に惹かれる、なんて……ちょっと癪だけど、Pちゃんもあたしも一緒かしらね……?」







お題は確かに恋だった様よりいただきました。
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