キリリク

□乱馬くんの暴走
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 もうすぐ春、というあたたかい日のことだった。


気持ち良い風が吹く。
学校帰りの公園で俺達は桜の木を見上げていた。

「んーっ、気持ちいいねっ」
「そうだなぁ。そろそろ花見の時期か?」
「あんたは花より団子でしょ?」
「うっせーな。かすみさんの花見弁当、おめーのと違って美味いからよっ」
「なんですって!?」

いつも通り、あかねからのキッツい一発を貰ってやる。
貰ってやるんだよっ!
決して避けられねえわけじゃねえっ!

……そうじゃねえと、今日はな……。
昼休みにヒロシとダイスケに言われたことが頭ん中をよぎるんだよ……。





『なあなあっ、あかねって何カップくらいあんの?』

雑誌見てた2人が突然聞いてきたこと。

『はあっ?知らねえよ』
『なんでだよ?毎晩楽しんでんだろ?』
『たっ……たたたっ、って何をだよ!?』
『またまたー。いいよなー、あかねの体を好き勝手できるなんてよー』
『しっ、してねえよっ!』
『え……ウソだろ?まさか……なんも……?』

信じられないって顔で見られてもな……。
しょうがねえだろっ、あの大家族の中で何ができるってんだよ!?

……でも、あかねの胸かあ。
何度かうっかり(?)見ちまったけど……。
うん、結構……あるよな?
D……いや、まさかE?

って!
何を想像してんだ、俺はっ!?
違うだろ、あんな寸胴、興味ねえっ!
そうっ!ねえんだよっ!





それ以降、あかねを見るたびに……なあ?
いくら興味ねえったって、目がいっちまうんだよっ。
いや、別に興味あるわけじゃねえよ、ただ言われたからついつい……。

「乱馬、ちょっと乱馬ってば!」
「あ?おお、なんだよ?」
「なんだよって……また聞いてなかったんでしょ!?」
「……悪かったなっ」
「……もうっ。今日はかすみお姉ちゃんがいないから、あたしが夕飯作るからね!」
「へー。…………へ!?」
「なによ?文句あるの?」
「……いえ、ないです……」

……しょーがねえな。
こりゃ今夜は逃げるに限るぜ……。





と思ったのに。

危険を察知して逃げた家族ども。
そして、いつもより長く道場で身体を動かしていた俺。
(誰だよ、邪念を払うため?なんて言ってる奴は!)
更にはいつもより早めに夕食の支度を終えたあかね……。

「乱馬、みんないないのよ……。ご飯出来たから一緒に食べよ……?」

なんて上目遣いで言われたらっ!
そんなときにうっかり昼間のヒロシ達のセリフを思い浮かべたりしちまったらっ!
しっ、しかも!
胸元が大きく開いたシャツに白いエプロンなんてつけてたらっ!

にっ……逃げらんねーだろっ!



とは言え。

「…………っ!?」
「あの……どう?」
「どうって……」

うん。
よかったぜ、気を失うほどじゃなくて。

とか言ってる場合かっ!

「これ、オムライスじゃなかったのか?」
「どこをどう見てもオムライスじゃないっ!」
「……いや、どこをどう見たら……」

見た目は茶色いし。
所々は黒いし。
オムライスってケチャップじゃないのか?
この赤いのはなんでこんなに辛いんだ?

「ちなみに……味見はしたんだろうな?」
「作ってるうちにお腹いっぱいになっちゃったんだもん」
「してねーのかよっ!」
「なによ!?まずかったとでも言うの!?」
「……食ってから言えよ……」

ふくれっ面をするあかねに、ずいっとオムライス(もどき)を乗せたスプーンを差し出した。
眉をひそめて不快感を全開にしながらも、スプーンにパクついたあかね。

「っ!?!?」
「ほれ見ろ。どうだ?」
「おっ、美味しくない……」

涙目でうつむいて握り締めた手をふるふると震わせる。
……ちょっとかわいそう……か?

「あー……もう一回作るか?」
「え?」
「俺も手伝ってやるからよ」
「……」

あれ……まずかったかな?
もう一回作らせた方が気が済むかと思ったんだけどよ……。
あ、俺が手伝わないほうがいいのか?
でもなぁ……1人で作らせたらまた材料が無駄に……。

「いっ、いいの?」
「はあ?」
「だって……あたしの作ったの、まずかったのに……また、作っていいの……?」
「……作りたいんだろ?」
「……うんっ!」

あかねの笑顔に見惚れそうになる……。
いやっ!エプロンが悪りぃんだっ!
魔力だ魔力っ!エプロン魔力っ!



「こっ、こう?」
「違うっ。もっとゆっくりやれよっ!」
「……っこうっっっっ!?!?」
「力入れすぎだっ!」

なんでこいつはこんなに不器用なんだよっ!?
人参くらい普通に刻めないもんか!?

俺はイライラを抑えつつ、あかねの後ろから手を添えた。

「こっちをこうすんだよ。そしたらきれいに細かくなるだろ?」
「うっ!?う、うん……」
「ほれ、ここ力入れて」
「はいっ」

随分と素直なあかねに気が付く……そして、自分の体勢にも……。


……なっなんでこんな自然にこんな体勢にもってったんだ、俺!?
うわ、あかねの体温感じるっ!
しかもっ!柔らけぇ……。
あー……うなじから良い匂いがする……。
心なしか……手がすげーあったけえし、なんかふわふわ……。

……ふわふわ……???


「らっ、乱馬?」
「は?あ!?ああっ!悪りぃっ!!」

思わずバッとあかねから離れる。
あかねの真っ赤になった顔が見えて、俺は自分の手を見つめてしまった。


なななっ、何触ってた、今っ!?
なんかあったかくて柔らかくて気持ちよくて……。

って、胸だよっ!
ええええ!?何やってんだ、俺っ!?


「べっ、別に……いいけど……」
「…………」

いいの!?いいのか!?
いや、でもやっぱあえて触るのはダメだよな?

って!
誰があえて触るんだよ!?
おっおっ俺じゃねえぞっ!
俺以外の奴は当然ダメだけどな!?
いや、別に俺のもんでもねえけどよ!?

「あのっ、炒めちゃっていいの?」
「ああ、そりゃあ……って!飯からじゃねえっ!具材からっ!」
「え?そうなの……だからいつもご飯が焦げちゃうのね……」

焦げるってわかってんなら工夫しろよっ!
……いや、あかねに『工夫』は逆に怖いか……。



そんなこんなで悪戦苦闘しながら、オムライスを作るのに2時間……。
最初のオムライス食ったのは5時過ぎだったのに、もう8時近い。
……が。

「美味しいっ!美味しいねっ」
「おうっ」

ものすごく嬉しそうな顔で俺を見るあかねの笑顔。
俺はついさっきの胸の感触を思い出しちまう……。

忘れろよっ!
無理だよっ!

なんて心の中で必死に繰り返してんだよ、俺は!




食い終わってから部屋へ戻ったあかねを見送ってから、宿題をやってないことに気が付いた。
まだ寝てねーよな?

「あかね?」
「なによ?」
「……宿題、見せて」
「……」
「さっき料理手伝ってやったろーが」
「……しょうがないわねっ。今日のは少し難しいわよ。あたしだって今、ちょっと考え込んじゃってるんだからね」

しぶしぶといった様子で机の端に寄ってくれた。
あかねが考え込んじまうって……相当難しいんじゃねえか?
俺にゃ到底無理だな、そりゃ。

椅子に座ってあかねの横顔を見ると、確かに眉をひそめて腕組んで考え込んでやがる。
これはあかねが出来るまで待ったほうがよさそうだ……って、ちょっと待て。


腕組んでる!
その腕!の、上!
むむっ胸がっ!乗ってんだよっ!!


うわ……ちょっと、思ってたよりあるんじゃねえか?
うん、でかくなった気がするぜ……。
触り心地もよかったよなー……。
あったかかったし、ふわふわで……。
いやっ、興味なんてねえよ!?ねえけどっ!


……ちょ、ちょっとだけ……触りてえ……かも。


いやっ、ちょっとだけな!?
だって俺のほうがでかいしっ!
形もいい……かどうかは見てみなきゃわかんねえな。
うん、見なきゃわかんねえっ!
見てみなきゃ……。

いやいやっ!
俺は一体、何考えてんだ!?
確かに触ってみたいし見てみたいし……って違ーーーうっ!
俺は自分ので十分だっ!
いや、それじゃあ本当に変態だな……。
だからってあかねなんて!
まっまあ一番近いとこにいるけど……。

……近いって何が?
一緒に住んでるってことか?
それとも……。

今、こうして椅子を並べてること……?

うん、確かに今なら触れるし見れそうな感じは……ねえよっ!
ねえよ、宿題しに来てんだよ、俺は!
ああもう、考えんなっ!
宿題に集中だ集中っ!


「……ちょっと、なにしてんのよ?」
「あ……いや別に……」

首をぶんぶんと振って集中しようとしていると、あかねに咎められた。
しょうがねえじゃねーか!
こうでもしなきゃあかねの胸が……胸が……。

「あ、消しゴム取って」
「あ?どこだ?」
「そっちの……ああ、もうっ」

あかねが俺の前に身を乗り出して机の端にある消しゴムを……消しゴム……をおぉぉぉぉぉぉっっっ!

うううっうなじが目の前にっ!
あーーー良い香りっ!
むむむっ胸がっ!
ちょっ……ちょっと俺の手を上げれば……さっ触れるんじゃ……!?

いやいや、ダメだろ!
殴られる!
って、そうじゃなくてっ!
男としてダメなんだって!

……あ、じゃあ言えばいいんじゃねえ?
『触らせて』って……言えるかっ!

「あれー?おかしいなぁ。さっきまでここに……」
「まままままっ、まだ見つからねーのかよっ?」
「おっかしいわねえ……あったのよ、さっきは」

ごそごそと俺の目の前で身体を……じゃねえ、手を動かすあかね……。
なんか……危なっかしいな……。

「きゃあっ!」
「おわっ!……と……」

思った通り、バランス崩して倒れたあかねを受け止める。
……胸の辺りを支えようとしたが……残念、腹だった……。

……いや!別に残念じゃねーし!?
なんだよ、残念って!?

「あ、ごめん」
「気ーつけろよ、ったく」

さりげないふりしてあかねの身体を支えて椅子に座らせる。

うわぁ……やわらけぇ……。
腕とか腰周りとか……。
じゃっじゃあ、やっぱ胸はもっと柔らかいはずで……。

「乱馬?もう大丈夫よ?」
「あっああ……」

あかねに言われて手を離す。

ちっ、惜しいっ!
って何がだ、俺っ!?

「あっ!あった!ちょっとどけてよ」
「はあ?」

消しゴムを見つけたらしいあかねが椅子の間に屈みこむ……って、だから!
おめえ、自分の格好分かってんのか!?
そのシャツ、胸元が開いてんだって!
だからだからだからっ!
下に屈んだら……ああっ、谷間が美味そうっ!
ぜってーーーーやわらけーだろっ!



……俺は気がつかなかった。
考えをまとめるのに必死で、つい手が動いてしまったことに。

「きゃあっ!何すんのよっ!?」
「へっ!?あっ、あああああっ!?ごっごめんっ!!」
「ごっごめんって……」

頬を染めて呆然とうずくまるあかねは……少し震えた手で自分の胸を抱える。
……つい手があかねの谷間に触れて……。
あかねもびっくりしてるけど、俺だってびっくりしてんだよっ!

ってか……どうなんだ、その体勢!?
そんなカッコでそんな顔で潤んだ目で見上げられたら……。

すとんと椅子から降りてあかねと目線を合わせる。
少し不安げに首をかしげるあかねが可愛い、と……本気で思った。


「……あかね……」
「え……」

そっと頬に触れても、あかねは逃げない。
胸を抱えたまま、頬を染めたまま、俺をじっと見つめる目に近付く。

きゅっと目を瞑ったあかねの頬に口付けた。

バクバクと心臓が音を立てる。
そのままゆっくりと唇を合わせると、小さく吐息が漏れた。

角度を変えて、何度も何度も口付けを繰り返す。
胸を抱えていたあかねの手が、俺の服の裾をぎゅっと握り締めた。
少しずつあかねの体が俺に寄ってくるのが嬉しくて……。


頬に触れた手をゆっくりと下ろしていく。
耳に触れ、うなじに触れ、首筋を通って肩へ、そして……胸に触れる。
服の上からでも分かる、やわらかさ……。

「……ぅん……っふ……っ……」

目をきゅっと瞑ったままでゾクゾクする声を出すあかねに、どんどん俺は熱くなっていく。
急ぎ過ぎないように……ゆっくりと揉むと、あかねの体が強張るのが分かる。
けど、止められない……。

「らっ、乱、馬……」
「……んだよ?」

必死に上げられた声に渋々キスを中断した。

「あの……もっもうすぐ……お姉ちゃん達、帰ってくる、から……」
「…………達?」
「かっかすみお姉ちゃんと……おばさま……」
「……知るかよ……」

止められなかった。
こんな状態で止めてたまるかっ!

強引にあかねを抱き寄せて首筋に唇を沿わせる。
手は胸から腰を何度も往復する。

「ぁっ、ぁぁっ……」

甘い甘い声を聞きながらあかねに酔っていく……。
うっとりとした顔、ぷるりとした唇が俺を惹きつける。

少し開いた唇からのぞく赤い舌に、思わず舌を絡ませた。
びっくりしたように身を引くあかねを強引に引き寄せ、深く深く、舌を滑り込ませる。

「あ……っん……ぁぁ……っ」

あーもーどうなってもいい……。
甘くて熱いキス、柔らかくてあたたかい身体、ほんのり染まった頬、俺を見つめる潤んだ瞳……。

「……あかね、いいかな……?」
「でっ、でも……」
「俺、もう……」









ガララッ。


ビクッ!とあかねの体が震え、瞬時に俺から離れた。
もっ…………もったいねえっっっっ!!


「あっ、あの……っ、あのねっ!?」


おずおずと俺を見上げる困った顔。

あー……ダメだな、こりゃ……。


「ん……ま、しょうがねえな……」
「ごっ、ごめん、ね……?」
「……」
「……乱馬?」
「……次は、逃がさねえからな」
「え……あ、はっはい……」


おお!?
はいって言ったぞ!はいって!
いいんだな、次はっ!?
おっしゃ!


トタトタとあかねが階段を降りる音がして、階下からあかねとかすみさんとお袋の声が聞こえてきた。
俺……どうすっかな……。
正直、人前に出られるような状態じゃ……。

とっ、とにかく!
なんとか沈めねえとっ!



ちっくしょーー!
絶対次は全身くまなく直に触ってやるからなっ!
覚えてろよ、あかねーーっ!!



…完…

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