GIFT

□太陽を想うとき
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【Ryoga side】


 きみはおれの太陽だ……。


「ああああああかねさんっ、こここれ、北海道土産ですっ……」
「まあ!長崎カステラ!九州に行ってたのね、良牙くん。いつもありがとう」

にこり、と微笑むあかねさん。
ああ、なんて健やかで明るい笑顔なんだ……っ。
まさに太陽!
この世の全てを包み込む、おれの、おれだけの太……。

「なんだ、カステラじゃねえか」
「あ、ちょっと乱馬っ!!」

ひょーいっ、とどこからか飛んできた乱馬があかねさんから土産の箱を奪う……。

「貴様っ!それはあかねさんへの土産だぞっ!」
「へー?あかねだけに?なんでまた?」
「そっそれは、その……っ」
「良牙くん?」

いいいいいいいい言えるかっそんなことっ!!
このバカと違っておれはナイーブなんだっ!!

「これ、みんなで食べちゃいけないの……?」
「あああああっ、いえっ!!ぜひ皆さんでっ!!!」
「よかった、なにかわけでもあるのかと思っちゃった」
「じゃ、帰ろうぜーあかね」
「そうね、良牙くんも一緒に……」
「良牙はまた旅にでも出るんだろ?別にうちに来なくてもいい……」
「行きます、あかねさんっ!!!」
「……チッ」

なに舌打ちしてやがるっ!?
大体“うち”ってなんだよ!?
天道家はあかねさんの家であって、断じて貴様の家なんかじゃないぞ!!

こうなったらとことん乱馬のジャマをしてやるぜ!




あえて乱馬とあかねさんの間に入り、あかねさんとだけ話すようにして天道家に向かった。
途中、乱馬に何度か攻撃を受けたが、絶対にこの場所だけは譲らないっ!!




「あら、良牙くん。いらっしゃい」
「あ、お、お邪魔します」

かすみさんにニコリと微笑まれると、なんだか自分の家にでも帰ったかのような穏やかな気持ちになれる。
決してブレることのない穏やかさ、騒ぎばかりの天道家をひとまとめにしているだけのことはある。

「お姉ちゃん、良牙くんがお土産にカステラをくれたのよ。一緒に食べよ?」
「あら、ありがとう。お茶でいいかしらね?居間に持っていくわ」

あかねさんが部屋へ行っている間に乱馬と居間でくつろぐ。

「なあ?」
「なんだよ?」

乱馬が大きく伸びをしながらおれに尋ねた。

「お前、あかりちゃんとはどうなってんだよ?」
「……おまえには関係ないだろ」
「あ、フラれたのか!?」
「貴様っ、喧嘩を売るなら……っ」
「売ってねえよ、ったく。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「……いや、なんでもねえ」

……?
なんだ、やけに気になる言い方だな……。

「さ、お茶にしましょうね。今日は美味しいお茶を頂いたのよ。良牙くん、ちょうどよかったわ」
「あ、ありがとうございますっ」

かすみさんの持つお盆からお茶の良い香りが漂い、その香りに反応するかのように乱馬がビリビリとカステラの包装を取る。

「おっ、うまそう」
「おいっ!まだあかねさんがっ」
「もう来るって」
「いや、でも……」
「制服から着替えるだけだ、そんなに時間はかからねえよ」
「……」

腹立たしい……同居してるだけでそこまではっきりわかるものなのか!?
それとももしやすでに2人は……。

いやいやっ!
清純なあかねさんが乱馬を相手にするわけがないっ!
あかねさんの純潔は一生守られるべきなんだっ!!
いや、むしろこの純粋なおれこそがっ!!

「なにニヤけてんだ、気持ちわりいな」
「……」

に、ニヤけていたのか、おれは……。
いくら思いに耽っていたとはいえ、おれはあかねさんを……な、なんてハレンチなんだ、おれは!?

「お待たせー。あっ、乱馬っ!ひとりで食べちゃわないでよっ」
「まだ食ってねえだろうがっ。おれを親父と一緒にするんじゃねえよっ」
「どうだか」

ほ……本当にすぐに来た……。
くっくそっ、乱馬は本当にあかねさんと通じ合っているとでもいうのか!?

「じゃ、良牙くん、いただきます」
「は、はいっ」

ああ……カステラを食べるあかねさんの笑顔……なんてかわいらしいんだ……。

「わあっ、美味しいっ。良牙くん、ありがとう」
「いえっ、こんなものでよければまたいつでも……」
「今度は九州に行けよ」
「……なんだそれは」
「おまえのことだ、九州に向かえば北海道に行けるだろ」
「……貴様などにはなにも買ってこないぞ」
「なに言ってんだ?」

きょと、と乱馬がおれを見る。
おおかた北海道で海の幸だのなんだのを買って来いとでも言う気で……。

「良牙くん、北海道に行きたかったんじゃないの?」
「え?あかねさん?」

な、なんだ?
あかねさんまで、まさか……?

「だって言ってたじゃない、北海道土産だって。北海道に行きたかったんでしょう?だから乱馬は……」
「……あ」

そ、そうか……。
おれに北海道に向かう方法を……。

な、なんだ……乱馬ってやつぁ結構いいとこあるじゃないか。

「ま、ついでに干し物でも買って来い、食ってやるから」
「……」
「ナマモノはやめとけよ、おまえが来る頃には腐っちまうからな」
「乱馬ってばっ。……あ、でもあたしは美味しいお菓子の方が……」
「……」

……そうだ、こういう奴だよ、乱馬は……。
あかねさんまで巻き込みやがってっ。
ちっ、見直しかけちまったぜっ。

やはりこんな奴にあかねさんは任せられん!
あかねさんはこのおれが幸せにっ!!

「あ、良牙くん、今夜は泊まっていくのかしら?客間にお布団を用意するわね」
「え、あ、す、すみません……」

そうか、もう夕方だからな。
これからおれが家に帰りつけるとは到底思えん。

……まあどちらにしても豚になってあかねさんの部屋に……。

「あ、そうそう、乱馬くん」
「へ?」
「お願いがあるんだけどいいかしら?」

にっこり、とかすみさんに微笑まれ、乱馬が首を傾げる。

「なんか運ぶものでも?それならおれじゃなくてもあかねの怪力で……」


ドゴッッッッ!!!!!


「い……ってーーーなあっ!この凶暴女っ!」
「誰が怪力よっ!?この変態っ!」

「まあ、仲良しさんね」
「仲良し……なんですか、これが?」

いつもながらかすみさんの思考回路にはついていけん。
どこをどう見ても殴り合いの喧嘩、だよな?

しかし乱馬のやつ!
仮にも許婚であるあかねさん(仮だぞ、仮!)に対しての暴言、許せんっ!!!

「でもね、2人とも」
「「???」」

……ん?2人?
乱馬だけじゃないのか……?

「夜はもう少し静かにしてもらえると嬉しいわ?」
「「「………………」」」

……な、なんだと……?

「お、お姉ちゃん……?」
「あの、か、かすみさん、その……」

ど、どうした!?
なぜ2人とも、そんなに赤くなっているんだ!?!?

「あの、あたしたちは、その……」
「乱馬くんは鍛えているんですもの、底なしなのはわかるんだけど……どうしても声が気になってしまうのよ」
「……っっっ!!!」

そ……っっっっ底な…………っ!?!?!?!?!?

「す、すみません……あの、きっ気をつけます……」
「ごっごめんね、お姉ちゃん……」
「いいえ、いいのよ?仲が良い証拠ですものね。ああ、でもちゃんとヒニ……」
「わああああっっっっ!!!!わかってます!わかってるから大丈夫!!!!」
「そう?」

ヒニ…………続きはなんだ!?
なにを言おうとしたんだ、かすみさん!?
まさか……まさかまさかまさか!?!?

……ン!?!?!?

「ごっ、ごちそうさまでしたっ!あたし、宿題しなきゃ!へっ部屋戻るわね!?」
「おおおおおおれもするぜ、宿題!」
「お、おいっ!?!?」

バタバタバタ…………。

慌しく2人が去っていく……。
おれは呆然とその後姿を見つめていた……。

「良牙くん」
「……え?な、なんですか、かすみさん?」
「今夜は……」
「……」
「……子豚さんになっちゃダメよ?」

にっこり。

……あああああ……おれの周りはさぞかし気温が低いんだろう……。
きっと吹雪いているに違いない……。
じゃなきゃこんなに凍りつくはずがないんだ……。

「か、かすみさん……」
「なあに?」
「お、おれは……」
「どうかしたの?」
「しゅっ……修行の旅に出ますっっっっ!!!!!!」
「あ、良……っ!?」








おれは走った。
そりゃあもう無我夢中で、必死に天道家から離れようと走り続けた。

あかねさんが乱馬にあかねさんが乱馬にあかねさんが乱馬にあかねさんが乱馬にあかねさんが乱馬にっっっっ!!!!!!!!!

ああもうおれは狂っちまうっっっっ!!!!!!!



「……ん?こ、ここはどこだ……!?」

気がつくとおれは今まで見たこともない景色の中にいた。

だが、もうどこでもいい……。
とりあえず……。

「……あかねさんはお菓子がいいと言っていたな……」

……そうだっ!
あかねさんが純潔を乱馬にみすみす奪われるようなマネをするはずがない!
きっとなにかの間違いなんだ!!
そうに決まっている!!!

だからおれはあかねさんにお土産のお菓子を買っていこう!
今度こそあかねさんに、あかねさんだけにお土産を渡すんだ!
おれの身も心もともに!!!!




おれは美しい雪山が描かれた『白い恋○』を片手に、心を決めたのだった……。




……ん?
そういえば、かすみさんはいつからおれが黒豚であることを知っていたんだ!?

……やはりかすみさんは(ある意味)侮れない存在だ……。




…完…

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