GIFT

□取扱説明書
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「………づがれだぁぁぁぁっ」

既に日はすっかり沈んちまってる帰り道の街頭が、足元を照らす。

「腹減った……。」

やっと暑さも和らぎ過ごしやすくなってきたというのに、この疲労感。

スポーツの秋とはよく言ったもんだ。

今日は野球部、昨日はバスケ部、一昨日は空手部、その前は………と、もう思い出せねぇけど、あらゆる部活に助っ人してかれこれ何日目だ?オレ……。

夏休みに遊ぶ金欲しさで、なびきから借りたのはいいけど結局返す宛も無く、等々売られたこの身体。
下着姿の姿を写真に収めるか、各部活に助っ人として出向くか決めろと言われて選んだ助っ人は、とんでもねぇシフトだった。

朝練から始まって放課後の練習試合に、区の大会まで。
大会は普通レギュラーが出るもんだろと反抗しても、なびきとの契約は大会までだと顧問の先生までもが言い出す始末。

流石に、なびきに何時まで働かせるつもりだっ!!!と問い詰めると、今週末までよと舌打ちしながら答えてたけど、ひょっとして、オレが言わなきゃ終わりがなかったかもしれねぇと思うと、背筋がぞくぅ、とする。



「あかね、もう部屋入ってんな……。」

暗く、遠くの天道家がくっきりと見え初める前から、まず、あかねの部屋を探してしまうのはクセみたいなもんだ。
それに最近はこんな生活の毎日で、ロクにあかねと話もしてねぇ。

まぁお人好しのあかねも少なからず、どっかの部活に助っ人してるみてぇだし、同じ家に住んでいても、同じクラスでも、すれ違っちまうのは仕方のねぇ事だ。

それでも、こんなに長くすれ違ってるのはケンカ以外じゃ珍しいかもしんねぇ。けどこんだけ話してねぇと、意味なくあかねの部屋に行くってのも、妙に躊躇っちまう。
どうせあかねも疲れてるだろうし、今日も風呂入ってすぐに寝るとしよう。

ふぅと小さく漏らして、やっと辿り着いた家の玄関を開けて、案の定、真っ暗な玄関に靴を脱ぎ散らかした。

「だぁっ!!!!くっそ」
「こんなところで何に怒ってんのよ。それもこんな遅くに」

思いもしねぇ呼び掛けに驚くも、あかねだとわかると無性に言葉が荒れちまう。

「な、なんでもねぇよっ!!!」
「どうしたの?」
「別に」
「あ、そう」

そのイライラを抑えてあれこれ言う気にもなれねぇで、素っ気なく返事をすると、あかねは気にも止めずにオレを素通りしていこうとした。

「なんだよ。素っ気ねぇな」

その態度にも腹が立ち、あかねの後を追う。

「なんでもない、なんて言ったのは誰かしら?」
「普通そこは、何かあるのかしら?って察する所だろっ!!」
「あら、察して欲しかったの?」

それでも歩きながら淡々と質問返しをするあかねに、余計に苛立ち、食いかかった。

「そこまでは言わなくても、今日も大変だったね。とかあるだろ?かわいくねぇな」
「悪かったわね。かわいくなくて。……でも、大変だったんだ」


″かわいくねぇ。″このフレーズを言えば、いつもは怒ってくるのに、やっと振り向いた顔は無愛想な表情で、どことなく感情も薄い。
その反応は正直、殴られるより寂しくて、つい本音がポロリと口から出てっちまう。

「別に大変って訳じゃねぇけど……疲れてんだよ」
「そりゃそれだけ助っ人やってたら疲れるわよ。ここの所、毎日じゃない?」
「オレもさ流石に朝から晩まで引っ張りまわされちゃ身体がもたねぇよ」

そして、思わず愚痴までも口にする。
あかねは、きっとムスッとした顔をしてるだろうオレに、他人事のように呟いた。

「ある意味修行ね。色んな所が鍛えられていいかも……。」
「はぁ、馬鹿馬鹿しい。ただの部活だぜ?修行に比べちゃ軽いっつぅの」
「だったら簡単じゃない。乱馬だったら朝メシ前ってところね」
「あったりめぇよ!!」

得意げに鼻息を荒らして、ガッツボーズをするオレにクスリと笑った。
なんでコイツが笑ってるのかわかんねぇけど、やっと見れたあかねの笑顔が妙にむず痒くて、鼻を指先で掻いた。

「な、なんだよ……。」
「なんでもないわよ。じゃあ、お風呂にでも入って疲れを取ったら?ご飯温めておいて上げるから」
「え?あかねが?」
「温めるぐらい出来るわよっ!!バカにしないでっ!!」
「まっ、頼んでやるよ」
「お願いしますでしょ!!」

案の定、ムッと眉を寄せて怒ったあかねに、べーっと舌を出してオレは風呂場へと走った。

「なによ、元気じゃない!!」

あかねの声が微かに聞こえた。
バーカ、そんなにやわじゃねぇよ、と心で思った時点で、オレは既に少し元気になってんだ。

たったあれだけの会話なのに、明日もやってやるか、と思わせる。

オレの扱い方がわかってんなと、苦笑いしながら汚れた服を洗濯機に投げ入れた。

「たまにはケンカでもすっかな」

風呂から出たら、部屋でも行ってやるか。
今週末まで乗り切る為に………。





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