GIFT
□夜の会話にご用心
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【G side】
……よしっ、も、潜り込み成功だっ!
外から覗く広い道場の中は、見渡す限りの人・人・人……。
今夜は天道家でのパーティだ、と昼間にあかねさんが話していたんだ。
まあ……呼ばれてはいないけど……。
でも、いいんだ!
だってこんなに人が大勢!
ぼくみたいなのが紛れていたってわからな……。
ぶぎゅるっ。
「よーっ、五寸釘。何しにきたんだ?」
「さ、早乙女えぇぇぇっっっ!」
「なんだよ?」
誰の頭の上に乗っているんだ!?
痛いじゃないかっ!!
「せ、せっかくのパーティに華を添えようと……」
「華ぁ?おめーが?」
「……」
あかねさん一筋っ!
こんなに健気な華はないだろう!?
「大体、今日はかすみさんの婚約祝いだってのに……まー次から次へとよく無関係の人間が来るぜ」
「え?か、かすみさん?」
「……知らずに潜り込んだのか、てめーは……」
こっ、婚約!?
あのウワサの“先生”と!?
じゃあもしや……。
――……リーーンゴーーーン……――
白いタキシードを着たぼく。
隣には……美しい、花嫁……。
東 『五寸釘くん、義妹をよろしくね』
五 『は、はいっ!お義兄さ…………
ドゴッ!!!
「なにを想像してんだ、なにをっ!」
「ハッ!早乙女!ぼくの頭の中を覗いたのか!?」
「口に出てんだよっ!」
お、恐ろしいやつめ……。
頭にポッコリと出来たたんこぶを擦りながら、ぼくは早乙女のあとに続いてさりげなく道場へ入り込んだ。
……ん?
あっ、あれは!!いつもあかねさんに付き纏っている九能先輩じゃないかっ!
ぼくのお義姉さん(になる人)の婚約祝いに、なぜ無関係な先輩がっ!?!?
「……誰がお義姉さんだ、誰がっ……」
「ハッ!ま、またっ!!」
「だから口に出てんだよっ!妄想は頭ん中だけにしとけっ!」
さ、早乙女のやつはまたっ!!
「あら?五寸釘くん?どうしたの?」
「あっあかねさんっ!」
ああああああああっ、相変わらずお美しい……っ!
その白いワンピース、すごくよくお似合いですっ!
「こいつ、庭に潜り込んでたんだよ。おめーが教室でペラペラ余計なことをしゃべるから」
「え?あたし、ゆかにしか言ってないわよ?」
「こいつは存在感がないからな、こっそり聞いてたんだろ」
「……そ、そうなの……」
しっ失礼な!
まるでぼくが悪いみたいじゃないかっ!
「見ろよ、九能に五寸釘に……ピコレットに三千院まで……」
「あ、あたしのせいじゃないわよ!?」
「わかったって。ほら、飲み物取ってくるぞ。全然足りねえ」
「ああ、そうね」
早乙女に頷いたあと、あかねさんがぼくを見た。
「五寸釘君、ゆっくりしていってね」
「は、はいっ!」
あああ、そのにこやかな微笑み……天使のようだ……。
おっと!?
あかねさん、早乙女のあとについて一体どこへ!?
飲み物なんて早乙女一人に取りに行かせればいいじゃないかっ!
脳みそ筋肉男ひとりで十分っ!
はっ、もしかして……。
――ガラガラガッシャン!!――
あ 『きゃあっ!落としちゃったっ。どうしよう、乱馬は先に行っちゃったし……』
五 『はっはっは、あかねさん!ぼくがいるから大丈夫さっ』
あ 『まあっ、五寸釘くん頼もしいわっ』
五 『わっはっはっはっは…………』
なななななななななんてことがもしかしてもしかしなくてもっっ!!
よしっ!
こっそりぼくもついていくぞ!
あの憎き早乙女があかねさんから離れたときが勝負だっ!
「乱馬ーっ、あった?」
「おお、これだな。ったくよー、あのクソおやじっ!祝いの席だからって高い酒をガブ飲みしやがって……」
「お父さんもお父さんよ、東風先生に介抱されるつもりかしら?」
「……東風先生、気の毒に……」
台所の入り口からこっそり覗くと、2人が酒を持ちながら話しているところだった。
……そうか、あかねさんのお父さまが飲みたくて酒を二人に頼んだのか……。
「乱馬は飲みすぎないでね」
「おれぁ未成年だっつの」
「そうじゃなくて!だから……」
「は?」
「……もうっ、鈍感っ」
……ん?
なんだ?なんだ今の会話は?
って、え!?
あああああああああかねさんっっっ!?!?!?!?
ななななんでなんでなんで早乙女の手なんか触って……!?!?!?
「……ああ、おれたちのときは、ってか?」
「そうよっ、ばかっ」
「はっきり言えよ、はっきりと」
「……」
ああ……頬を染めて俯くあかねさん……なんて可愛らしいんだ……。
「いくらおやじの息子でも、祝いの席で酔い潰れるようなことはしねえよ」
「ほんとかしら?」
「ばーか、あったりめーだろ?」
「どうして?」
「……鈍感なのはおめーの方だ」
「え?」
ああああっ!
早乙女ええええええっっっ!!!
あかねさんの耳に汚い口を近づけるなあああ!!!!
「 」
「っっっ!!!!」
何事かを囁いた早乙女を、あかねさんが真っ赤な顔で見上げた。
「そんなことないわよっ、ばかっ」
「だから鈍感なんだっつの。ほら、いいから持って行くぞー」
「う、わ、わかったわよ……」
な、なんだこの雰囲気は……。
ん?なんだ、早乙女のやつっ!
なんだかんだ言いながら飲み物全部持ってるじゃないか!
くっそーーーあかねさんにいいとこ見せようとしやがってしやがってしやがって!!
あれくらいぼくだって!!!
「……なにやってんだ、五寸釘?」
「はっ!しまった!」
「しまった!じゃねえよ、こんな分かりやすいとこにいて」
呆れたようにぼくを見下ろす早乙女が憎いっ!
「もしかして五寸釘くん、運ぶのを手伝いに来てくれたの?」
「はっ!!はいっ!」
「わあ、ありがとう」
あかねさん……その爽やかな笑顔、ずっとぼくに……。
「ほらよ」
ドスッッ!!
「ぐええええええええええええっっっっっ!!」
早乙女から持たされた一箱に、ひざが悲鳴を上げる。
いや、ひざだけじゃない。
腕も腰も肩も……。
「ちょっと!乱馬、いきなり持たせるなんてひどいじゃない!」
「え、そんなに重たかったか?」
ひょい、とぼくから荷物をよけた……のは。
「……あかねさん……」
「大丈夫?」
「……」
……あかねさんが片手で軽々と持っているように見えるのは、僕の気のせいだろうか?
うん、気のせいだ。
気のせいに違いない。
「あかねー行くぞ」
「あ、うん。ごめんね、五寸釘くん」
く、くっそーーーー、早乙女えええっ!
あかねさんからさり気なく箱を取って片手で持ち…………。
……ん?なんだあれ……?
あああああかねさんの腰にっっっ!!
早乙女が手を添え添え添え添ええええええぇぇぇぇっっっ!!!!!
あかねさんっ!なぜ嫌がらないんだ!?
早乙女にそんなことされてっ!
……って、もしかして……。
ふふふ2人はすでにそういう関係に!?!?
……いや、まさか……まさか……っ。
……いやっ、気のせいだっ!!!
すべてぼくの気のせいなんだーーーーーっっっ!!!!
…完…