長編
□魂替香〜フンティシャン〜
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はじめに。
とてもお馬鹿な物語になっています。
「らんま1/2に別漫画のキャラが出てくるなんてありえない!」という方は見ないほうがいいです…。
なんでもありっしょ!?という寛容な方のみの閲覧でお願いします^^;
なお…誹謗中傷苦情、ご遠慮ください…祈
それではどうぞ!
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草木も眠る丑三つ時。
常人なら動くのも躊躇しそうな暗闇の中、蠢く小さい影がひとつ……。
「ふっふっふ……これでわしの思うがままに……」
ふわり、と細い煙が立つ香皿がコトリと枕元に置かれた。
締まらないが悪どい顔と蚤のような小さい体で眠る人物を見下ろすのは、言わずもがな、八宝菜。
何も知らずに眠るのは……。
「らんまちゃんは、無力じゃ……ふっふっふ……」
そう、早乙女乱馬であった。
「乱馬ーーーっ!いつまで寝てんのよっ!」
「……んあ?」
「遅刻するわよっ、起きなさいっ!」
ガバッ!と布団を剥いで部屋を出る。
まったく、毎朝毎朝……なんで起きられないのかしら!?
居間に入るといつも通り、テーブルには朝食が並んでいる。
乱馬とおじ様が居候を始めてから、我が家の食卓は随分と量が増えた。
毎朝の奪い合いが2人の日課のように感じる……ちゃんと座ってゆっくり食べたほうが絶対に美味しいのに。
トタトタ、とあまり急いでもいないような足音が聞こえて、乱馬が居間に顔を出す。
遅刻寸前なのに、何でのんびりしてんのよっ!?
「おはよう」
「あ……お、はよ……ございます……?」
かすみお姉ちゃんの挨拶になぜか疑問形で返す乱馬の口に、あたしはチーズを乗せた食パンを突っ込んだ。
「んぐっ!?」
「早くしなさいっ!行くわよっ!!」
「ん?んほひ?」
「何言ってんのかわかんないわよ!ほら、かばん!」
無理やり胸にかばんを抱えさせ、手を引き、靴を履くのもそこそこに走り出す。
あたしの後ろについて走る乱馬は、相変わらず息も乱していなくて少し悔しい……。
って?
ちょっと待って?
なんであたしの後ろを走ってるの?いつもはフェンスの上じゃない!
ちらりと後ろを振り向くと、あちこちに目を走らせながらもしっかり付いてくる乱馬。
いつも通り、よね?
あたしが感じたほんの少しの違和感。
ここで立ち止まって乱馬に一声かけていれば……ううん、どっちにしても巻き込まれていたことは間違いない。
このあと、至極面倒な一日が始まることになるなんて……あたしは予想もしていなかった。
ぎりぎりで校門を通り抜け、玄関で一息。
「あーもうっ、あんたのせいであたしまで遅刻するとこだったじゃないっ。朝一番でジョギングは出来るのに、何で学校行くためには起きられないのよ!?」
「……はあ?」
「はあ?じゃないっ!」
「なあ、それより……」
「なによ!?」
「オラ、腹減った」
「……は?」
パン食べたじゃない、とか。
あれじゃ足りないのね、とか。
言いたいことは色々あるけど……。
とりあえず、聞き間違いかしら……?
「食うモンねえか?オラ、腹減ると動けねーんだよなー」
……オラ?
…………オラ!?
ちょっ、ちょっと待って。
乱馬っていつも『オラ』なんて言ってた?
『オラ』って言うのは……。
「……ムース?」
「なんだ、それ?ウマイのか?」
……ムース、じゃない……?
って、そもそも外見は乱馬なわけだけど……。
え、ちょっと待って?
今、なんだそれ?って言った?
……まさか、ムースを知らない……?
「あの……あんた、乱馬、よね……?」
「ランマ?違うぞ」
「ななっ、なにを……っ!?」
「おめー、さっきからなんだかチチに似てんなー」
「ち……っ!?」
ちち?父?
お父さんに似てるって……?
あたし、お父さん似だったかしら……。
って、ちっがーーーうっ!
問題はそこじゃないっ!
この目の前にいる乱馬の姿をした男が、乱馬じゃないって(言ってるって)ことよっ!
「なあ、そういえばココどこだ?西の都じゃなさそうだし……こんな風景見たことないぞ」
「えーと……東京の風林館高校、だけど……」
「コウコウ?」
「が、学校……」
「へえ。オラ、学校なんて初めて来たぞ」
「そ、そう?」
毎日来てるのに……って、違う違う!
乱馬じゃないのよ、この人はっ!
え、でも……昨日の夜までは確かに……一緒に宿題したし。
一体どうしてこんなことに!?
「なあ、オラ帰ってもいいか?」
「え!?帰るって……どこに!?」
「パオズ山ってわかるか?」
「……パ……?」
「昨日の夜は確かに家で寝てたはずなんだけどな。自分でもなんでこんなとこにいるのか、わっかんねーんだ。チチが心配してっと思うから早く帰りてーんだけど」
「えーと、あの……ちょっと待ってね?」
「おう」
あたしはじっと乱馬を見た。
もしかしたら……そっくりな別人かもしれないじゃない!?
そっとおさげに触れる。
と……。
「お!?なんだこりゃ!?」
「え?」
「オラの髪……立ってねえ!」
「立…………つわけないじゃない、髪の毛が」
「いや、オラの髪ってどんな風にしても立っちまうんだ」
……ロックでもやってんのかしら?
ううん、それよりも。
乱馬は……じゃなかった、この人は自分の顔が分かってないのかもしれない。
もしかしたらほんとに、乱馬の体に別人が入ってるのかもしれない。
それとも多重人格にでもなったのかしら!?
あたしは乱馬を引っ張って校舎に入り、鏡の前に連れて行った。
「ほえ!?これ……オラか!?」
「そうよ。あの……わかる?」
「いやあ、わっかんねー!なんでこんな!?」
「なんでって……こっちが聞きたいわよ」
鏡で自分の顔を見て、鏡をぺたぺたしたり自分の顔を触ったり、体つきを確認したり。
しばらくそうやって自分を確認した後。
「なあなあっ!オラ、このままここにいてもいいか!?」
「ええっ!?」
「なんか面白そうだからよっ」
このままって……いいの、それで!?
なんなのこの人!?
なんでこんなに能天気なの!?
でも……待って。
ここで乱馬が学校を休んだら、単位が足りなくなるかも……。
最近毎日のようにシャンプーたちに追われて授業ボイコットしているもの。
……うん。よしっ。
「あのね?あんまり、その……無茶しないで?」
「わかったぞ。黙ってりゃいいんだな?」
「う……うん、お願い……」
「おうっ!まーかしとけって!」
「……」
なんだろう……この人、ものっすごく不安だわ……。
とっとにかく!
何事もなく乱馬が戻りますように……。