中編

□静かにさせたいだけなのに(完結)
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【A side】

「……いつまでこうしてるの?」
「戻るまで」
「……」

即答した目の前の許婚は、コタツの中からそっと外を覗き見た。
誰から逃げているかなんて言うまでもない。
例の3人娘から……。

……と言いたいとこだけど、今回ばかりはちょっとワケが違う。

「まったく、なんでこうもトラブル持ち込むのよ、あんたは?」
「しっ!静かにしろって!」

はあ、とため息をつくも、きっと乱馬は全く気がついていない。

「なんだってあたしまでこんな狭いところにいなきゃならないのよ?」
「おめーは出るなっ、俺のそばにいろ!」
「……」

状況が状況ならね。
ものすごいコロシ文句だと思うわよ。
だけど今はそんなんじゃない。

「あのねー、あたしには全く関係な……」
「しっ!きたぜ!」
「!」

別にあたしが隠れる必要なんてないのに、なぜか乱馬につられて息を潜めてしまう。



「乱馬くーーーーん?こーーーこーーーかーーー?」



でんでろでんでろでんでろ……。

そう、乱馬を探しているのは……お父さん。
それもいつものお父さんじゃない。


『乱馬、あかねの父に嫌われればいいね。許婚解消すれば乱馬はわたしの婿になるしかない』


そんな理屈でシャンプーに飲まされた丸薬。
通りすがりの中国人から買ったっていう怪しい代物だけど。
シャンプーが置いていった説明書によると、白い丸薬を飲んだ人が赤い丸薬を飲んだ人に激しい嫌悪感を抱くらしい。
それが今のお父さんと乱馬の状態。
その効果は12時間〜24時間。
シャンプーの狙いはもちろん、効き目があるうちにあたし達の許婚を解消させること。

「……行ったか?」
「……そうみたいね」

もそもそとコタツから這い出すあたし達。

「ったく、シャンプーのやつ!なんのつもりなんだっつの!」
「乱馬を婿にしたいんでしょ?なってあげればいいじゃない」
「かっっっっっわいくねーな、おめーは!」
「ふんっ!変態に言われたくないわよっ!」
「俺は変態じゃねえっ!ヤキモチも大概にしやがれ!」
「誰が妬くかーーーーっ!」

どっかーーん!!と、激しい音を立てて乱馬が空へ飛んでいく……。
これでお父さんに見つからずに済むでしょ、ふんっ!





【R side】

ほんっっとにかわいくねーな、あいつは!
誰のためにこんなにおじさんから逃げてると思ってんだ!?
いやっ、別に許婚解消されたくねーワケじゃねえっ。
あかねに未練なんか……っ。
そうそう、あいつ、俺がいなきゃまた変な男に付きまとわれるからよ。
俺が助けてやってんだっ!
少しは感謝しやがれ!

「……おじさん?」

玄関を少しだけ開けて家の中の様子をうかがう。
おじさんの靴は……ない。
よしっ、外に探しに行ったな?

ほっとして家に入り、あかねの姿を探した。
ったく、なにかってーとすぐ殴るわ蹴るわ……なんであの細腕でこの俺様をあんな遠くまで放れるんだよ!?
文句言ってやらなきゃ気がおさまらねえ!

「あら?帰ってきたの?」
「あかね!」

2階の空き部屋であかねを見つけた。

「おめー、あんなとこまで飛ばしやがって!この凶暴女!」
「なっ、お父さんから逃がしてあげたんだから感謝しなさいよっ!」
「もうちょっとかわいげのある行動できないのかよ!?」
「かわいくなくて悪かったわね!どうせあたしなんて……っ」



「乱馬くーーーーん?どーーーこーーーだーーー?」



「ひっ!?」
「きゃ……っ」

何もない空き部屋、隠れられるのは……押入れの中だけ!
とっさにあかねを抱えて押入れの中に逃げ込んだ。

「ちょっ、なにすんのよ!?」
「黙ってろ!」

あかねを押さえつけて口をふさぐ。
おじさんの気配が消えるのをじっと待った。

そのままで数分……やがて、おじさんの声も気配も消え去った。

「……はあ……」

つっ、疲れる……。
まったく、シャンプーのせいで……………………って、えっ!?

「ん……っ」
「っ!?」

おおおおお俺っ!?なにやってんだ!?

押入れの半分には客用布団。
俺とあかねは残り半分のスペースに入ってるわけだけど……。

布団にもたれ掛かったあかねの両手を、片手でがっちりと上で押さえつけ。
もう片方の手であかねの口をふさぎ。

……あ、あれ!?
これじゃあ俺、あかねを狭いとこに引きずり込んで襲ってる感じじゃねえか!?
へっ変態扱いされてもしょうがねえよっ!

あああああああでも離したくねえっ!
だってやわらけーし!あったけーし!
なっなんかイイ匂いが……っ!

「……ふぅん……っ」
「っ!」

またなんつー色っぽい声出すんだ!?
いつもは色気なんてないくせに何でこんなときだけ!?
っつーか、なんだその目は!?
そんな潤んだ目で困ったような顔してんじゃねえって!
その上目遣いが理性ぶっ壊すってわかってんのか!?

もそ、とほんの少しだけ動いたあかねの体勢にぎくりとした。

おっ俺、変態!?
あああああかねの足の間に入っちまってんじゃねえかっ!
ミニスカートから伸びる足が白くて今にも下着が見えそうな……って、そうじゃねえっ!
これってこれってこの体勢って……その、ソウイウコトするとき、の……!?




どどどどどどどどどどどうする!?
どうする、俺っ!?!
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